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新しい学びの機会を届けるために|ピアニスト・パリ国立高等音楽院伴奏科教授ー保都玲子

みなさんこんにちは!フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。

今回は、パリ国立高等音楽院伴奏科教授・保都玲子先生にお話をお伺いしました!

保都先生は、ヨーロッパ各地でソロや室内楽の演奏、そして伴奏教授と幅広くご活躍されていますが、もともとはフルート留学でフランスに来られたという、なんとも珍しいご経歴をお持ちです。

そんな先生の留学エピソードや、長年携わってこられたフランス音楽院の伴奏科に関する貴重な情報を、皆さんにお届けします!

保都先生とアドバイザー袴田、パリにて

保都 玲子 Reiko Hozu
国立音楽大学付属中学ピアノ科、付属高校フルート科で学んだ後パリに留学し、パリ・エコールノルマルフルート科にて工藤重典氏に師事、ディプロマ・コンサーティストを首席で卒業。アラン・マリオンの推薦によりパリ国立高等音楽院フルート科のピアノ伴奏者として就任するが、同時にピアノをシュトゥットゥガルト国立音楽大学ソリストコースでOleg Maisenbergに師事、首席卒業。またチューリッヒ音楽院にてHomero Francesch に師事し、Landolt-Preis受賞。ドイツ今世紀最大の作曲家Karlheinz Stockhausenのもとでピアノ曲14曲を学び、2005年には演奏したピアノ曲10番に対して、作曲家自身から日本人初シュトックハウゼンベストパフォーマンス賞を受賞。ピアノソロCD「スクリアビズム」「Souvenir 」ではヨーロッパ、アメリカで高い評価を受ける。1999年からロン・ティボーヴァイオリン国際コンクール、ロストロポーヴィッチコンクール、ランパルコンクールの公式伴奏者を務め、2年間毎週朝のラジオ番組 France Musiquesで即興演奏者も担当。Raymond GuiotとのCD「レイモン・ギヨーの芸術」や Noah Bendix-Balgley と20世紀前半曲集のCDをリリースするほか、Alexander Markov や Mohamed Hiber、Kyril Zlotnikov 等とデュオを定期的に演奏している。

目次

フランスの伴奏科について

伴奏科の生徒たちと

袴田:まず、伴奏科について教えていただけますか?

保都:フランスではピアノ・ソロ以外に、伴奏法に重点を置いて、音楽をあらゆる面からアプローチする「伴奏科」というクラスがあります。

今ピアノを専攻していらっしゃる方々の中には

・他の楽器奏者と共演するとき、なんだかしっくりしない…どうしたら良いのだろう?
・どんな点に気を付けて練習したら、スムーズに上達するのだろう?

などと、日頃から考えている方が多いのではないでしょうか。

私の教えているパリ国立高等音楽院伴奏科は、ナディア・ブーロンジェ女史、日本でも教鞭を取られていたアンリエット・ピュイグーロジェ女史、そして沢山の日本人も教えを受けたジャン・ケルネール氏が伝統を引き継いできました。

現在はジャン=フレデリック・ヌーブルジェ氏が、修士課程の器楽伴奏科で教鞭をとっています。

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また、ケルネール氏の意向により設置されたオペラ伴奏科と歌曲伴奏科の各クラスでは、エリカ・ギオマール女史、アンヌ・ル・ボゼック女史がそれぞれの学科を担当しています。

そして数年前からは、ケルネール氏がずっと願っていたバレエ伴奏科学士課程もついに設置されました!

それまで私たち伴奏科の教授陣が無理やり時間を割いて教えていたバレエ伴奏が、専門科でみっちりやっていただけるまでに発展したのです。

袴田:わかりやすい説明をありがとうございます!

保都先生は、どの課程を担当されているのでしょうか?

保都:私が受け持っているのは、伴奏科学士課程です。

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ここは、修士課程に進級する準備をはじめ、将来伴奏を職業としてやって行ける所まで、ひと通りオールマイティに勉強するというクラスです。

伝統あるフランスの伴奏法を教える日本人として、レッスンがどのように行われているのか、どんな課題をこなしていくのかなど、リアルな情報を日本の皆さんにも知っていただけたら、今後の勉強の役に立つのではと思います!

袴田:ありがとうございます。

このインタビューでは、保都先生がフランスで伴奏科の教授となるまでのお話や、伴奏家像についてお伺いしていきます!

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きっかけはフルート留学?!人生を変えたニース夏期国際音楽アカデミー

袴田:保都先生は、もともと留学でフランスにこられたのですか?

保都:はい。中学はピアノ科でしたが、高校ではフルートを専攻していたので、フランスにはフルートで留学に来ました。

留学2年目の夏、ニース夏期国際音楽アカデミーに参加したのですが、そこで私の人生が変わりました。

袴田:講習会中に何かおありだったのですか?

保都:フルートクラスの伴奏員の方が体調不良になってしまい、伴奏が出来なくなってしまったのです。

講習生の仲間たちや先生たちは困ってしまい、何度か伴奏なしのレッスンが行われました。

そんな中、私は少し伴奏も出来たので、少しずつ講習生たちと一緒に練習するようになりました。

講習生が持っていっていた曲はほとんど知っていましたし、自分でも弾いたことがある曲も多かったので、それでレッスン終わりに仲間たちの伴奏をしていたんです。

すると、たまたまそれを見かけた先生が「講習会の公式伴奏になってほしい」と言ってくださり、なんと1期だけフルートで参加するつもりだったのが、3期全ての日程を伴奏ピアニストとして参加することになりました。

袴田:本当ですか!そんな提案があるのもびっくりですが、若くしてこなしてしまった保都先生も相当な実力がおありだったのですね。

保都:やっぱりフルートのレパートリーをよく知っていたのが大きかったんだと思います。

そうしたら、9月からパリ国立高等音楽院(以下:CNSM)のフルートクラスにも来てくれないかとお声がけいただいて、よくわからないまま伴奏員の仕事を始めることになりました。

袴田:そんなことが留学して間もない10代のうちに起こったなんて、なんと言葉にしたらいいかわからないほどびっくりです!

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フルート留学+CNSMの伴奏員の生活

袴田:講習会が終わって、その年の9月からCNSMでお仕事を始められたのですか?

保都:はい。伴奏員を始めつつ、フルートもまだ続けていましたよ。

最初、サン=モール地方音楽院に留学していたのですが、講習会に参加する前に卒業しました。

来年度からどうしようかなと思っていた時に、ちょうどニースにいらしていた工藤重典先生が、今年からエコール・ノルマルの先生になるというお話をしてくださったので「私、生徒になります!」と言って、工藤先生のクラスに入学することになりました。

やっぱりフルートで留学したかったのもありますし、仕事も見つかったけれど、やっぱりまだ「自分がこれからどうしたらいいのか?」っていう自分の意思が弱かったので、フルートは続けることにしました。

こうして留学3年目に、フルートの学生+伴奏員の生活が始まりました。

でも案の定すごい仕事量でしたし、まだまだ伴奏家としては未熟だったので、色んな先生を紹介してもらって、ピアノや伴奏のレッスンを受けながら働いていました。

袴田:想像を超えるような生活ですね。

先生が幼い頃から積み重ねてこられたものが、フランスで一気に繋がったような感じですし、とにかく色んな出会いとタイミングがおありだったのですね。

フルートかピアノか?仕事か学業か?20代前半で迫られた選択の数々。

CNSMの卒業生、山中麻鈴さんと

保都:CNSMで働き始めた頃は、まだフルートのコンクールも受けてたのですが、あるとき工藤先生に「今はフルートとピアノ両方出来ると思ってるかもしれないけど、絶対に今後も続けていくのは無理だから、どちらかを選びなさい」って言われまして…

改めて自分の将来について考えたあげく、ノルマルを卒業するタイミングでフルートを辞めて、ピアノを選ぼうと決めました。

ちょうどそのとき、フルート奏者の友達が、私が持っていたモデルのフルートが欲しいと言っていたので、卒業するタイミングで私のフルートをその子に譲りました。

袴田:キッパリと手放されたのですね。

ちなみにどちらか決めなさいと言われた時に、ピアノ伴奏を選ばれたのは、どんな理由があったのですか?

保都:レパートリーと活動の幅の違いです。

フルートは当時、国際的なソリストになるか、オーケストラに入れなかったら何もできないと言われていましたし、まだまだ外国人がオーケストラで活動するのも難しい時代だったので、フルートを選んだら難しいんだろうなとは感じていました。

そんな時に、伴奏の方で色んな楽器との演奏機会が増えるようになり、活動の幅がどんどん広がっていくのを感じたので、伴奏で行こうと決意しました。

袴田:そうなんですね。そこからしばらくCNSMの伴奏を続けられたのですか?

保都:はい。ピアノの仕事を一生懸命頑張ってたのですが、バリバリのピアニストじゃなかったですし、フランスでピアノの勉強もほとんどしていませんし、今後ピアニストとしてやっていくにはやっぱり何かしっくりこないっていうのがありました。

例えば、フランクやシュトラウスのソナタなどの名曲が来た時なんかは、他の人の30倍ぐらい練習しないといけなかったのです。

それで「やっぱりちゃんと勉強するためにCNSMのピアノ科受験をしよう」と思って、申し込みました。

ですが、ここでもCNSMの学長から「仕事を続けるか、学生になるかどちらかにしなさい」と選択を余儀なくされたんです。

でも、その時既に親からの仕送りは断っていたので、生きていくには仕事はやめられないから、ピアノ科はCNSM以外の学校に行くしかないなと思い、たまたまご縁があったシュトゥットゥガルト国立音楽大学Oleg Maisenberg先生のもとで学び始めました。

袴田:若くして現場に出ながらも、学び続けられた努力に脱帽します!

右手の不調、そしてボザールで開かれた美術の道

尊敬する作曲家であり、恩師であるシュトックハウゼン氏

保都:当時、毎日何時間も弾いていたので、実は10ヶ月くらい右手を壊して弾けなかった時がありました。

袴田:そうだったのですか。

保都:若かったのもありますし、忙しい中ガンガンとケアーをせずに頑張ってしまったんですよね。

それで右手を痛めてしまい、しばらくは左手しか弾けない期間が有りました。

そんな中、趣味だった油絵を頑張ってみようとパリ国立高等美術学校(以下:ボザール)を受験しました。

そうしたら運よく合格することができたので、手を痛めている間はボザールにも通っていました。

ちなみに今も、ちょっと時間ができたので、また通い始めましたよ!

袴田:そうなんですか。いつもインスタグラムで拝見していた絵が、まさかボザールの課題だったとは…!

絵はずっと描かれていたのですか?

保都:本当にただ趣味で時々描いていました。

そんな時に、思いつきで受けてみようと思って受験したんです。

袴田:ちなみにボザールの倍率はどのくらいだったのですか?

保都:約1000人受験して、入れるのは10人ぐらいです。

袴田:そんな厳しい受験を潜り抜けられたのですね!

ずっと芸術全般に興味がおありだったのですか?

保都:そうですね。やっぱりその当時に生きてた作曲家の人たちが、どんな芸術の人たちとの交流があったかは興味がありますし、芸術ってどの時代も繋がっているので、そういう歴史もボザールで勉強できたのはとても楽しかったです。

伴奏家に向いている人とは?

ヴァイオリニスト・イヴリー・ギトリス氏と

袴田:これまで色んな学生さんたちを見られてきて、こういう人が伴奏科に向いてるなと思われることはありますか?

保都:CNSMで教え始めたのは2000年なので、もう24年になるのですが、今思うのはやっぱり人間のいい子ですね。

そこが少し欠けてると、伴奏の現場でどうもうまくいかない子が多いんです。

人との関わり方が大事な仕事なので、どんなに技術が高くても最後は人間性の良さだなって思います。

袴田:とても説得力がありますね。

私もフランスでたくさん伴奏科の方にお世話になったのですが、ピアニストからアドバイスをもらうこともありますし、やっぱりそういう気持ちのいいコミュニケーションができると「この人と共演できてよかった!」と思います。

なかなか日本ではフランスの伴奏科にピンとこない人が多い印象なのですが、伴奏科で勉強された方って演奏家でありながら先生的な立場でもあり、本当にマルチで尊敬します。

保都:そうですよ。伴奏家ってソリストが立つところに、最高の絨毯である人みたいな感じです。

色んな技術を持っていても、すごく頼まれる子と全然頼まれない子が分かれてしまうのは、やっぱり人間性でしょうね。

袴田:なるほど。楽器の演奏を突き詰める世界とは、またちょっと違う世界ですね。

保都:そう。だから、伴奏のレッスンをするってなっても、生徒の人間性に対するアプローチも大切にしています。

袴田:ありがとうございます。

保都先生は伴奏科以外に、ピアノ科の初見の授業も担当されていますが、そこではどんなことをされるんですか?

保都:初見の授業は必須科目なので、ソリストを目指しているから初見や伴奏なんて興味がない子や、伴奏にも興味があってマルチにやっていきたい子、とにかく色んな生徒がいます。

目的・目標は人それぞれですが、少しでも多くの生徒に新しい学びの機会を届けられたらいいなと思っています。

興味がある子にはとりあえずなんでもやらせてみますが、無理だったらやめればいいし、これを続けていきたいというのなら、ちょっと時間がかかってもいいからもう少し深めてみようというように、生徒に合わせて課題を考えています。

袴田:初見の授業をきっかけに、自分の道が広がる人がいるっていうのはすごく素敵ですね!

保都:やっぱりCNSMレベルになると、みんな結構同じようなレパートリーを学ぶことが多くなりがちなのですが、伴奏って楽器の縛りもなければ、全時代・全ジャンルの音楽に取り組めるので、後にソロ活動だけしようと思っている方々も視野は広がると思いますよ。

袴田:その中から生徒の課題を選ぶのって、本当に経験値が求められますよね。

幅広い人と関わってきて、たくさんの奏者を育ててこられた先生だからこそ、今こうして感じました。

これから留学する人へのメッセージ

Credit photo: © Maya Vidon-White – contact: +33 6 63 06 16 18

袴田:最後に、これからフランスに留学したいっていう人たちに向けてメッセージをお願いできますか?

保都:もし今から準備するなら、なるべく早めに準備してフランスに行ってみればいいと思います!

もしまだ迷ってる方がいたら、短期でプライベートレッスンを受けたり、講習会とかにいってみるのもいいですね。

この夏からティーニュという山で行われる夏期講習で教える事にもなりましたので、一夏の参加で体験するのも良いかもしれません。

どちらにしても何か伴奏科について質問があったら、どうぞお気軽にご連絡ください。

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今年で教鞭を取り始めてから24年、様々な学生さんを見てきましたが、今だに残念だなと思うのは、何も知らずに飛び込み受験をしてとても残念な思いをされる方が多いことです。

そういう方々のためにも、そして特に留学など考えていらっしゃらないけれど伴奏する事やパートナーと弾くのがとても好きな方たちのためにも、きちんとした情報が伝わると良いなと思っています。

袴田:親身になってくださり、ありがとうございます。

Music Discoveryの方にメッセージをいただければ先生にお繋ぎしますので、みなさまからのご連絡お待ちしております!

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