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ピアノと歩む人生にも、たくさんの可能性があることを広めたい。伴奏ピアニスト・櫻井 如那インタビュー #07

みなさんこんにちは、フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。

ピアニストの皆さん、フランスには器楽・オペラ・歌曲・バレエに特化した様々な伴奏科があることをご存知ですか?

今回は、歌曲伴奏を始め、フランスを中心に幅広く演奏活動をされている伴奏ピアニスト・櫻井 如那さんにお話をお伺いしました。

日本での苦労話から、パリに渡り、ピアノで職を手にした現在に至るまで、たくさんの方々に届けたい彼女のメッセージが詰まっています!

櫻井 如那 Kotona Sakurai
小学三年生から中学三年生まで横須賀芸術劇場少年少女合唱団に在籍し、アンサンブルに親しむ。桐朋女子高等学校音楽科ピアノ科、同大学を卒業後、渡仏。パリ13区音楽院ピアノ伴奏科を経て、パリ国立高等音楽院オペラ伴奏科および歌曲伴奏科(修士課程)にて、コレペティトゥア、伴奏ピアニストとして研鑽を積む。現在は、パリ国立高等音楽院の声楽科伴奏員を務めるほか、パリ1区音楽院や郊外の音楽院にて伴奏員として教鞭をとる。2019年、トゥールーズ国際歌曲コンクールにて坂本久美(ソプラノ)とデュオを組み、フォーレ・セヴラック賞を受賞。2021年、エクス=アン=プロヴァンス音楽祭ボーカルレジデンシーアカデミー生。

目次

留学のきっかけ

夏のセーヌが一番!

袴田:まず、留学のきっかけから教えていただけますか?

櫻井:大学の授業で「伴奏法」っていう授業をとっていたんです。

器楽・歌曲・オペラの3つにわかれてて、楽器や歌の人が来てくれて一緒に弾いたりしていました。

そのうちの1個のオペラの授業の先生が、パリで伴奏科に留学したことがある方で、その先生の授業がきっかけで、オペラのDVDを図書館で借りたり、実際に見に行ったりもしました。

後はそれに並行して、小学校高学年ぐらいから大学4年ぐらいまで、個人でソルフェージュを習ってる先生がいたんですね。

高校に入るまでは受験対策をしてくれてたんですが、それ以降はいわゆるフランスの伴奏科でやるような、初見とかスコアリーディング、移調とかを、彼女が私に教えて教えてくれていて。

私はそれがフランスの伴奏科でやってることって知らなかったんですが、なんかそのレッスンが好きだったんです。

それで、大学3年が終わる頃、その先生と雑談で「卒業した後は何か考えてるの?」みたいな話をされたときに「先生のところでやってる勉強が好きだから、そういうのを続けたい。」って言ったんですね。

それは「卒業しても、先生のレッスンは通い続けたいです」っていう意味だったのだけど、そしたら「フランスにこういう伴奏科っていうのがあってね・・」っていうのを詳しく教えてもらえて。

そこから自分で調べ始めて、パリ国立高等音楽院(CNSM)に日本人の先生(保都 玲子先生)がいるから、彼女にコンタクト取って・・という感じで、フランスとつながり始めました。

袴田:ソルフェージュの先生とは別で、専攻のピアノの先生もずっといらっしゃったんですよね?

櫻井:はい!ただ音楽大学のピアノ科って、1学年100人とかいるんですよね。

私はソロで弾くのがあまり得意じゃなくて、すごいコンプレックスに感じていたんです。

私より上手い人はたくさんいるし、この中でいわゆるピアニストとして活躍していくのは現実的じゃないな・・と思っていて。

その中でも、私がソルフェージュの先生のところでやっていたような、自分が得意で、好きなことっていうのを続けてきたのが、今の伴奏家という道に繋がっていると思います。

大学を卒業後、すぐにパリへ

思い出深い、CNSMの試験部屋

袴田:話を戻して、玲子先生にコンタクトを取った後のことも教えていただけますか?

櫻井:はい、先生にコンタクト取ったら、彼女もすごく親身になっていろいろ情報を教えてくれて。

そしたらそのうち「メールでやり取りしてもなんだから、もう来ちゃえば?」みたいな感じで言ってくださって。

それで大学4年になる前の春休みに初めて2週間ぐらいパリに行きました。

CNSMの学士課程の伴奏科と、修士課程の伴奏科(器楽・歌曲・オペラ・バレエ)のレッスンを聴講させていただいて。

そこで、これがまさに日本で私がソルフェージュの先生とやってたことだ!そしてここならもっと深く学べる!と、自分の目と耳で感じて「ここで勉強したいな」って思ったのを、今でもすごく覚えています。

フランス語も全く喋れなかったし、すごい緊張してたけど、先生たちも当時は遠くから聴講しに来る人が珍しかったのか、すごく親身になっていろんな話をしてくれて、「ここで勉強しよう」って思いました。

袴田:そうだったんですね!では、卒業したらすぐにフランスへ留学されたんですか?

櫻井:そう。卒業してすぐの5月にフランスに行ったんです。

何もわからず、とりあえずフランスに来て、最初の5ヶ月ぐらいは玲子先生が持っていたアパートの一部屋を借りさせてもらって生活していました。

そして、9月から13区の音楽院の伴奏科に1年間通って、半年ぐらい経った冬にCNSMの入試を受けて、翌年の9月にCNSMに入学しました。

語学準備について

年に1度の音楽の祭典「Fête de la musique」

袴田:もうフランスに来ちゃって準備する、というのは勢いがあっていいですね!当時語学の準備はどのようにされましたか?

櫻井:フランス語自体は、音楽高校だったからか、2年生になるとドイツ語かフランス語かが選択できたんです。

その時は全く留学とか考えてなかったけど、なんとなくフランス語を選んで、文法とか発音とかはその頃から少しだけ勉強していました。

それから、いざ留学しようかなみたいなったときは、語学学校に通って実践的な日常会話とかをやって、すごく力になったと思ったんですけど・・・やっぱりこっちに来てから「あの勉強したことは何だったんだろう」と感じるくらい、最初はフランス語が分かりませんでした。

袴田:音楽留学ということもありますし、なかなかすぐに使える表現を覚えるのって難しいですよね・・・

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パリ国立高等音楽院のオペラ伴奏科・歌曲伴奏科

憧れのエクス=アン=プロヴァンス音楽祭にて

袴田:その後、CNSM受験の時に伴奏科が3つある中で、オペラの伴奏科を選ばれたのはなぜですか?

櫻井:小3くらいから高校に入るまで、地元横須賀の合唱団に入ってたのと、高校や大学でも副科で声楽とか習ってて、歌はすごい好きだったんです。

小学生の頃からずっと、歌は自分の身近にあるものだったかな。

でも、一番最初にオペラ伴奏科を受験するのは、本当におすすめしません。

合格するかもしれませんが、入った後に求められる語学力がとっても高いんです。

私みたいに留学2年目で入って、フランス語はまだそんなに喋れない、となると本当に困ります。

すぐに入ったことを後悔はしていませんが、当時は毎週泣いていたくらい、とにかく大変でした。

膨大な量の歌詞を読まなきゃいけないのはもちろん、イタリア語やドイツ語など他の言語の授業もあって・・・周りはみんなフランス人で、特にイタリア語とかは同じラテン系だから、なんとなくわかるんですよね。みんなが笑っている中で、会話に入れない時って孤独感がすごくて。

なので、フランス語が出来ない時にオペラ伴奏科に入るのはおすすめできません。

でも、その分ここで学べることって絶対に面白いと思うので、最初にピアノ科とか、学士課程の伴奏科、もしくは他の音楽院の伴奏科で基礎を学んで、ある程度知識をつけてからの方がおすすめです!

袴田:そのオペラ伴奏科の修士課程で3年学ばれた後、さらに歌曲伴奏科の修士課程にも進もうと思ったのはなぜですか?

櫻井:まず「歌が好き」だということですね。

あとはオペラ伴奏科の同級生とか先輩とかを見ると、わりと当たり前のように両方の学科に在籍している人が多かったので、ずっと興味はあって。

そんな時に、先生から「ことな歌曲伴奏科は受けないの?」って言われたのもあって、CNSM2年目に受験しました。

そのときは不合格でしたが・・

袴田:そうだったんですね!

櫻井:実力というか、経験不足だったのは自分でもわかっていて。

オペラ伴奏科で求められる素質と、歌曲伴奏科で求められる素質って全然違うんですよね。

オペラ伴奏科は、自分が主体になって他の人をリードしていく、コーチングしていく、とかそういうことが求められるのに対して、歌曲伴奏科は室内楽的というか、歌のパートナーと一緒に音楽を作っていくという感じで。

先生の言葉を借りると「同じピアニストなんだけど、かぶっている帽子が違う」イメージ。

私が1回落ちたときは、そこを履き違えてたんだと思います。

袴田:その例えは面白いですね!

櫻井:自分の中で2つの帽子をうまく使い分けられるというか、室内楽的にアプローチする人にもなれるし、必要であれば、帽子をかぶり直して、それに歌の人たちがついてくるっていう人にもなれる。

そんな2つの役割が、オペラ伴奏科と歌曲伴奏科での5年間を通して、自分に身についたかなって思います。

袴田:歌の伴奏の世界、とても深い・・・

櫻井:そうなんです。でも、CNSMの伴奏科ってわりと職業訓練学校みたいなところで。

音楽を深めるのはもちろんなんですが、学校を出た後に、どれだけすぐ仕事できるか、在学中にどれだけ現場で求められているスキルを身につけられるか、っていうスピード感は常にありました。

実際、今いろんなお仕事をさせてもらっている中で、在学中に苦しみながら学んだ初見と弾き歌い、そして移調やスコアリーディングのスキルって本当に役に立っていて。

袴田:学んだことが全て仕事に繋がっているんですね、素敵です!

現在のフランスでの活動について

友人と鉄板焼肉パーティー

袴田:ということは、フランスに残って仕事をするというのは、やはり必然的だったのでしょうか?

櫻井:いえ、卒業したら日本に帰るべきか、フランスで仕事をするべきか、というのはずっと迷っていました。

そしたら、卒業試験が全て終わった7月ぐらいに、学部長から電話があって「CNSMで伴奏員の代理のポストがあるんだけど、如那やる?」って言われたんです。

それは歌曲伴奏科の教授からの推薦だったみたいで。

当時本当に悩んでいたので、この電話をきっかけにフランスに残ろうと決めました。

でもその伴奏員の仕事だけは生きていけないから、そこから他の仕事も探し始めて今に至る、という感じです。

他の仕事では、Les Hallesにあるパリ区立音楽院と、もう1つ郊外の音楽院で伴奏員をしています。あとはもう5、6年続けているアマチュアの合唱団の伴奏もしています。

袴田:たくさんのご活躍、素晴らしいですね!現在取得されているビザは、どんな種類のビザになるのでしょうか?

櫻井:アーティストの方たちが一般的に持っているPassport talent の中の salarié という種類です。Passport talentにも2種類あって、私のように音楽院などと契約を結んで、そこからの給与所得の方が多い場合は、このSalariéになるんですね。

でもやっぱり「伴奏員」を「アーティスト」の枠に入れてもらうのは担当する人によっては理解されなくて「これじゃなくて、ソリストとしてのコンサートの契約書を出してください」と言われたこともあります。

私たちも彼らの仕事の詳しいことは分からないので「そうですよね・・」と思いながら「今までこういう勉強をして、それがこの仕事に繋がって、この仕事をフランスで続けたいんです」っていうのをメールに書いて説得しました(笑)

留学生活で困ったこと

お気に入りのマルモッタン・モネ美術館

袴田:留学中に困ったこととか、こんな情報が欲しかったとか思われたことはありますか?

櫻井:こっちの保険証の仕組みとか、保険証届くまで時間がかかるからそれまで仮の保険証しか持てないこととか、学生なのに急に住民税の請求が届いてびっくりしたりとか、学生でも所得税を申告しなきゃいけないとか・・・

そういう学生でも関係してくるような国のシステムについて、ちゃんと事前に知っておきたかったなと思います。

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学生だと住民税は払わなくてもいいのに、何かの手違いでそれが届いてしまうとびっくりするし、怖くなるというか・・その辺の情報を事前に知ってたら驚かないし、変な不安もなくなるので、もっと情報が広まればいいなと思います。

留学したい人へメッセージ、そして自分のように悩むピアニストたちへ

歌曲伴奏科の卒業試験を終えた同級生と恩師と一緒に

袴田:ありがとうございます!最後に、留学を考えている人に向けてメッセージをお願いします!

櫻井:私はピアノが好きだったけれど、ピアノのソロでやってたときにすごく苦しい思いもたくさんして。それが伴奏科に留学して、そこでの勉強が楽しくて、ようやく自分の居場所を見つけられて、今仕事に活かかせてるのがすごく嬉しいから、「自分のやりたいこと」とか「好きなこと」というよりも「これ得意だな」というものが何か一つあると、自分の軸になる気がします。

ただ留学したい、っていうだけだと、目的がぼんやりしちゃうかもしれないなっていうのが私の体感としてあって、それよりも「自分がこれが得意だから、こういうことがしたい!」っていう軸が1個でもあると、その思いが今後自分を助けてくれるかなって思います。

袴田:今までの如那さんのお話を聞くと、そのお言葉に本当に説得力がありますね。

今実際に音楽大学でピアノを専攻されている人たちの中にも、きっと昔のことなさんのように窮屈に感じている方が多いのではないでしょうか。

櫻井:そう、本当にそう思います。

私は、高校・大学とピアニストを目指す人がたくさんいる環境で育ってきたのですが、同じ1つのピアノにも、いろんな可能性があるというのを、もっと広げていきたいです。

伴奏するにしても、器楽伴奏を得意とするのか、歌の伴奏なのか、バレエの伴奏なのか、あとは即興演奏や映像に合わせた伴奏を得意としたりとか。

そういう色んな可能性が見えたから、私はピアノを続けることが出来ました。

そうやって、自分の仕事を見つけてる人がいるよ!っていうのが伝わるといいなって思います。

袴田:そうですね、如那さんのそのお言葉、きっとたくさんの人の励みになると思います。

今回はお忙しい中貴重なお話をしていただき、本当にありがとうございました!

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