皆さんこんにちは!フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回皆さんにご紹介するのは、パリ6区音楽院・ムードン県立音楽院のクラリネット教授、オリヴィエ・ピエール=ヴェルニョ先生です。
これまでに、多くの日本人生徒も迎えていらっしゃるオリヴィエ先生。
先生がレッスンで大切にされていることや、フランスのクラリネット教育のリアルなど、皆さんが気になる情報をたっぷりとお届けします。
明るく優しいお人柄があふれる、オリヴィエ先生のインタビューをお楽しみください!
オリヴィエ・ピエール=ヴェルニョ Olivier Pierre-Vergnaud
パリ国立高等音楽院クラリネット科ミシェル・アリニョン氏のクラスを、最優秀の成績で卒業。現在、パリ6区音楽院とムードン県立音楽院教授で教鞭をとる傍ら、パリ・オペラ座管弦楽団、ルーアン・オペラ座管弦楽団、オーヴェルニュ管弦楽団をはじめとする、主要オーケストラで定期的に演奏。また、室内楽や現代音楽の創作現場でも積極的に活動している。また、幼い頃から教育に興味を持っており、世界各地でのマスタークラスや夏期講習会、国際音楽フェスティバルなどにも毎年参加。
パリ6区音楽院とムードン県立音楽院
袴田:先生、お久しぶりです!またお会いできてとても光栄です。
オリヴィエ:そうですね。美帆さんが6区にいたとき、いつもピンクのアナログ式メトロノームを使って練習していたのを覚えていますよ!
袴田:ああ、懐かしいです!私のニックネームのように呼んでいただいていましたね(笑)
コンクールやパリ国立高等音楽院の受験の際も、応援していただけて嬉しかったです。その節はありがとうございました!
先生は、パリ6区音楽院とムードン県立音楽院で教えていらっしゃるとのことですが、2つの音楽院で何か違いはありますか?
オリヴィエ:パリ6区音楽院では主に子どもたちのレッスンを中心に担当し、ムードン県立音楽院で音大レベルの生徒を指導しています。
パリ6区音楽院には、もう1人クラリネットの同僚 ブルーノ・マルティネーズ先生がいるのですが、彼はもう20年以上音大レベルの生徒だけを担当しているんです。
なので、ここでは私が子どもの生徒たちを受け持っています。
区立の音楽院なので、子供から大人まで全ての人に対して音楽教育をしなければいけませんからね。
袴田:そのように分担されていたのですね!
オリヴィエ:はい。ですので、ムードン県立音楽院では外国人の生徒、特に日本や韓国をはじめとするアジアからの留学生も多く受け入れています。
はじめは韓国人の生徒が多かったのですが、最近では日本人の生徒も増えてきました。
生徒たちが少しずつ友達に紹介してくれて「口コミ」が広がったんだと思います。嬉しいことですね。
あと、パリ地方音楽院(以下:CRR)のフローラン・エオー先生とも交流が深いのですが、CRRはどうしても倍率が高いので、せっかく才能があるのに受験に受からなかった生徒さんたちを、私のもとへ紹介してくれたりもします。
彼は日本にもよく行っていますが、マスタークラスで留学したいという学生に対して「私はCRRで教えているけれど、倍率が高いからもしダメならムードンに行ってみてね!」と言っているそうです。
どうしても音大レベルの生徒となると、どこの音楽院でも席数が限られているので、同僚たちもお互いに紹介し合っています。
せっかくフランスまで来たのに、その年に席がないから帰国するのはもったいないですからね。
袴田:そうですよね。私たちも、いわゆる「滑り止め校」をどうやって皆さんに紹介するか、あれこれ考えながら情報収集をしています。
レッスン内容について
袴田:さて、先生のレッスンについてお伺いしたいのですが、何かご自身のメソッドや、特に意識されている内容はおありですか?
オリヴィエ:そうですね、一人ひとり違うので一概に言うことはできませんが…
特に大切にしていることは、楽譜に書いてあることを忠実に表現することと、音色作りです。
楽譜を尊重することって当たり前に聞こえるかもしれませんが、これを守れていない人がとても多いですね。
学生はもちろん、先生やプロの奏者にも言えることです。
音符を正確に読むことだけでなく、音程の正確さや、音色の使い方、フレーズの性格など、楽譜を尊重するといっても本当にたくさんの要素があります。
特に今の学生たちは、速く練習しすぎて、残念ながら大切なポイントを見逃しがちです。
楽譜を尊重するには長い時間がかかるので、レッスンでしっかり教える時間を取るようにしていますね。
袴田:先生の楽譜との向き合い方に、とても共感します。
楽譜も音源もすぐに手に入ってしまう時代だからこそ、譜読みにはじっくりと時間をかけたいところですね。
では、音色作りに関してはいかがですか?
オリヴィエ:音色作りも、楽譜をよく読むことと同じくらい基本です。
楽譜に忠実に演奏するためには、まず美しい音を出すことが必要だからです。
逆に、美しい音色を持っていれば、自然に楽譜も尊重できるようになります。
私のもとへ来てくれる留学生たちも、音色にこだわりを持っている生徒が多いですよ。
あとは、以下の3つのポイントを守れるようにと、レッスンで繰り返し伝えています。
自分の音をしっかりと聴き、できるようになるまで耐える。そしてそれを実現するには、集中力が必要不可欠と言うことです。
袴田:素敵ですね!
生徒さん方はレッスン以外で、どんな活動をされているのですか?
オリヴィエ:音楽院の授業では、オーケストラや吹奏楽のレッスンに参加しています。
DEM (音楽研究資格)を取るのに、オーケストラや吹奏楽、室内楽も必須なので、ほとんどの生徒が毎週参加しています。
袴田:ありがとうございます!
フランスのクラリネット教育について
袴田:フランスのクラリネット教育について、簡単にお話いただけますか?
オリヴィエ:フランスの伝統的なクラリネット教育は、エコール・フランセーズと呼ばれるもので、パリ国立高等音楽院(以下:CNSM)に入ることが、音楽家としてのキャリアで有利になると言われてきました。
ですが、最近では状況が変わりつつあります。
もちろん今でも、CNSMがクラリネット教育の最高峰であることに変わりはありません。
CNSMの入試では、2次試験に進んだ11人中9人が外国人でしたし、フランスのクラリネット教育が国際的に高く評価され続けているということですよね。
でも、CNSMのディプロムを持っているだけでは、仕事が見つかるわけではないというのが今の現実です。
主要オーケストラのオーディションの結果を見ても、今やCNSM出身者が締める割合はだんだん少なくなってきていますよ。
これを言い換えると、今はパリのCNSMでなくても素晴らしい教育を受けることができ、以前よりも選択肢が広がっているということです。
例えば、ジュネーブやローザンヌ、スペインの方にも素晴らしいフランスの先生たちがたくさんいます。
なので「必ずこの学校に入らなければいけない」という縛りが少しずつなくなっていて、自分に合った学校を見つけていってほしいなと思います。
夏の講習会について
袴田:先生は、夏の講習会にも参加されていますか?
オリヴィエ:はい、もう何十年も夏は講習会に行っています。
昔は、アーティスト同士でも講習会を企画していました。
6〜8部屋ほどある大きな家を借りて、数人の生徒と一緒に1週間過ごすというもので、食事も全部自分たちで作って、すごくアットホームな時間でしたね。
今は、ボルドーのグラーヴで開催されている国際音楽講習会に毎年参加しています。
ここは、ボルドーワインで有名な地域です。
講習会中は、レッスンだけでなく、毎晩コンサートがあってワイナリーなどで演奏するんです!
袴田:それは面白そうですね!フランスならではのコンサートで、行ってみたくなります。
オリヴィエ:今年の夏は7月20日から1週間ボルドーに行き、その後はフレーヌの講習会に初めて参加します。
これは私が1992〜1993年に生徒として参加した講習会で、約30年後に講師として呼んでいただけるなんて感慨深いですね。
他にもフランスには本当にたくさんの講習会があります。
日本ではあまり知られていないものも多いと思いますが、誰でも参加できますので、ぜひ一緒に講習会で夏を過ごしましょう!
袴田:ありがとうございます。私たちも、今後多くの講習会情報を日本の皆さんに広めていきたいと思います!
これから留学したい人へのメッセージ
袴田:最後に、これからフランスで音楽を学びたいと思っている日本の方々へ、メッセージをお願いできますか?
オリヴィエ:音楽を職業にするかどうかにかかわらず、音楽を学ぶために留学することは本当に素晴らしいと思います。
音楽がなくても生きていけますが、音楽があることで必ず人生が豊かになります。
私はいくら疲れているときでも、楽器を演奏したり音楽を聴いたりすることが活力になりますよ。
袴田:Music Discoveryでも、プロの音楽家になりたいわけではないけれど、フランスに音楽留学する人が増えてきています。
オリヴィエ:そうなんですね。
6区音楽院では、子どものクラスの他に一般愛好家クラスも担当しているので、もし興味があればこちらにもいらしてください。
短期間の滞在(3ヶ月〜)でも登録できるので、ビザが必要ない範囲で滞在することもできますよ。
袴田:プライベートレッスンではなく、音楽院に登録して勉強することができますし、学校の練習室が使えるので便利ですよね!
オリヴィエ:そうですね。とにかく、生活に音楽が身近にあるのはとても素晴らしいことです。
クラシック音楽を演奏することって、偉大な作曲家の思いを音で翻訳できるのですから!そんな特権、音楽の他にはないですよ。
このことを忘れずに、音楽を職業にするかどうかにかかわらず、皆さんが音楽と共に良い人生を送ることができるよう、願っています!
袴田:素敵なお言葉をありがとうございます。
私たちも、音楽を学びたいと願う全ての皆さんのお役に立てるよう、これからもがんばります!
今日はお忙しい中、インタビューにご協力いただきありがとうございました!