こんにちは。フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回インタビューにご協力いただいたのは、フルート奏者・起業家の川上葉月さんです。
社会人経験を積んでから、自由度の高いワーキングホリデーを利用して音楽院に通ったという、彼女の留学生活。
フルートのレッスンだけではなく、幅広い分野に目を向けて過ごしたフランスでの経験が、起業家としてのキャリアにも生かされたそうです。
そんな川上さんの留学生活の様子から、会社を設立された経緯もお読みいただけます!
川上 葉月 Hatsuki Kawakami
埼玉県深谷市出身。月音ミュージック合同会社代表。武蔵野音楽大学卒業。在学中に学内ウィンドアンサンブルメンバーに選抜される。第39回フルートデビューリサイタル出演。第9回ANPルブリアンフランス音楽コンクール審査委員賞、山手の丘音楽コンクールフルート部門予選奨励賞ほか多数受賞。大学4年次にフランス・ニース夏期国際音楽アカデミーに参加。大学卒業後、フルート専門雑誌ザ・フルートの編集部に就き、2014年渡仏。パリ19区立ジャック・イベール音楽院に進学。2016年帰国後は地元埼玉県深谷市にて音楽教室を開講し、現在は教室運営、イベント企画、音源制作などの会社を経営しながらフルート奏者としても活動している。
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フランス留学の経緯
袴田:川上さんは、いつ留学されていたのでしょうか?
川上:2014年〜2015年に留学していて、パリ19区立の音楽院に通っていました。
大学を卒業してから3年間は、アルソ出版の編集部で働いていたので、フランスへ行ったのは25歳ぐらいのときです。
私はワーキングホリデービザで渡仏し、1年間アルバイトや仕事をしながら学生をしていました。
袴田:そうだったんですね。どんなアルバイトをされていたのですか?
川上:日本の仕事関係で留学生のインタビューをしたり、カフェでアルバイトをしたり、ベビーシッターをしたり、いろいろしながら学生してましたね。
袴田:留学しようというのは、いつ頃から考えてらっしゃったんですか?
川上:フランスに行きたいという思いは、大学生の頃から思っていました。
ただ、家族から反対されたのもありましたし、留学後にどんな仕事ができるのか不安で、リスクが高いと思ったので、卒業後は音楽業界のことも幅広く学べる会社に勤めて、社会人経験を積むことにしたんです
同時に3年間社会人として頑張ったら、フランスに絶対留学するぞ!というのも決めていたので、3年後に仕事を辞めて渡仏しました。
袴田:すごく計画的に考えていらっしゃったのですね!どうしてパリ19区の音楽院を選んだのですか?
川上:当時は漠然とフランスに行きたいな〜という感じで、習いたい先生や学校はあまり具体的に考えていなかったんですよね。
ただ、やっぱり先生を決めなければ留学先は見つからないので、夏にニース国際夏期音楽アカデミーに参加しました。
その中から先生を選べたらなと思ったのですが、習いたいなと思った先生が、ちょうど教鞭をとっていた学校を退職されるとのことで、その時には先生が見つからず…。
そんなときに、大手留学エージェントが主催していたコンサートの案内をもらい、パリ19区立音楽院の教授・ミエ・ウルクズノフ先生の演奏を聴きに行ったんです。
そしたらもう、先生の演奏に度肝を抜かれ、すぐに「この先生に習いたい!」と思いました。
その場で先生のもとへ行き、フランスで師事したいことをお話しすると「ぜひおいで」と言ってくださったので、パリ19区立音楽院に留学することが決まりました。
パリ19区立音楽院で学んだ、即興と語学のつながり
袴田:音楽院の生活で、心に残っているイベントはありますか?
川上:あります!
先生が、即興音楽を得意とする先生で、個人レッスンの他にも即興の授業があって、それがとても楽しかったです。
この授業にはいろんな楽器の生徒がいて、みんなで一緒にいろんなジャンルの音楽を演奏しました。
先生は民族音楽が好きで、インド音楽やフラメンコの音楽、あとはアフリカ音楽にも触れました。この時間は、アドリブを交えて演奏するのですが、自分の性格が素直に出るので面白かったです。
これはフランス語とも似ているような気がして、最初のうちは恥ずかしくて喋れなかったり、言葉が出てこなかったりしても、自分の気持ちが乗ってると、自然に喋れているのと一緒だなと思います。
即興するときも「恥ずかしがらずに、失敗してもいいからやるぞ!」みたいな感じだと、結構うまくいくのに、逆にいろいろ考えすぎて演奏しようとすると、全然うまくいかなかったりとかするので、音楽と言葉って似ているなと思いました。
なので、即興クラスでのモチベーションが、フランス語の勉強だったり、留学中のコミュニケーションの取り方だったりに影響しましたね。
袴田:すごく分かります!私も即興やインド音楽をやっていて、どんどん扉が開ける感じや、音が降ってくる感覚がいいですよね!
それが語学と似てるというのは、その通りだと感じました。
苦労したフランスでの物件事情
袴田:フランスでの家探しはどうされましたか?
川上:これ、結構苦労しましたね。
家を見つけるのは、日本人向けの仲介業者に頼んだので苦労しなかったのですが、住んでからが大変でした。
その時、安全だと言われていた16区のアパートを900ユーロくらいで契約したのですが、いざ行ってみると16区でも端の方で、びっくりするくらい治安が悪かったんです。
袴田:え!そうなんですか。結構家賃も高めですし、良さそうなところなのかなと思いました。
川上:そうなんです。確かに16区なんですけど、ブーローニュの森の近くの売春婦が多い区域で、夜歩くのが怖かったです。
しかも、駅からも遠くて、最上階の狭い屋根裏部屋で、壁もすごく薄くて。
袴田:そこは楽器の練習可という条件で探されたのですか?
川上:そうなんです。でも、いざ練習してみると、毎日のように苦情が来ました。
袴田:それはもう散々ですね。
川上:本当ですよ。家賃も高くて、治安も悪くて、駅から遠くて、狭くて、楽器も練習できないのは耐えられなかったので、すぐに引っ越しました。
ただ、退去するときに保証金が返ってこなかったんです。
袴田:え!そうなんですか。
川上:退去したい旨を、仲介業者と大家さんに伝えた後、保証金についても尋ねたのですが、何十回と電話やメールを送っても全部無視されて、仲介業者も何も助けてくれませんでした。
袴田:それはひどいですね・・・
川上:家賃の2ヶ月分が保証金となることが多いので、学生にとっては結構な額じゃないですか。それが返ってこないとなると、新居に引越しする時も大変でした。
袴田:そうですよね。保証金トラブルは結構多くて、契約するときにしっかりと保証金返金に関する条件を確認しておくのが大切だなと思います。
川上:そうですね。その後の家は、知り合いの紹介で入居したので、そういったトラブルもなく住むことができました。
フランス留学から帰国してすぐに起業!留学で得たマインドとは?
袴田:川上さんは、フランス留学から帰国されてから起業されていますが、留学経験はご自身の活動にどう繋がっていますか?
川上:フランス留学中って、とにかく自分から行動しなければいけないじゃないですか。
黙ってじっとしていたら、何も得られないので、そのマインドは起業した時とリンクしています。
仕事募集してますって書いたとしても、そんなことで来るわけがなくて、自分からどんどん動いていかないといけない。
先ほどの即興クラスにも通じることですが、自分をどんどん開いていかないと、何も始まらないし、出てこない。
なので、色々と恥ずかしがっては駄目っていうのが、留学の心得と自分で事業を起こした心得とも似ていると思います。
袴田:そうですよね、川上さんの強い芯を感じます!
フランス留学中に、帰国後は起業されると決めていたのですか?
川上:はい、そうです。
留学中に、同じフルートの留学生の人たちと集まることもあったのですが、みんな朝から晩まで練習して、コンクールや講習会を受けたりしていて、全然話が合わなかったんです。
それに、フランスでの音楽の仕事って、音楽院の先生だったり、オーケストラだったり、すごく狭い世界だなと思ったので、フルート奏者だけで生きていくのは、私には合わないなと感じていました。
自分の性格上、いろんなことを切り開いて、企画したりとかそういうことがやりたかったので、とりあえず音楽教室だ!と思って、フランスにいるときからホームページを作ったり事業方針を考えたりしていました。
袴田:帰国してすぐに会社を設立されたんですね!
川上:そうです。でも、そのときは教室の経営だけで生計を立てるつもりではなく、音楽で食べていくためには、教えることも必要かな、くらいの気持ちでやっていました。
そうしたら、うまく軌道に乗せられて、講師も増やして大きくしていって、演奏や企画の事業も作って、ようやく会社になってきた感じがしますね。
袴田:今その会社は何年目ですか?
川上:もうすぐ6年目になります!
最初は自分の家で、1人でレッスンをしていたのですが、家族にも迷惑かけちゃうし、ここだと広がらないなと思ったので、テナントで開業したらどんどん生徒集まってきて、今は3店舗目オープンに向けて頑張っています。
袴田:音楽教室の場所は埼玉県にあるんですね!
川上:はい。音楽の文化があまり発展してないから苦労することもあるんですけど、そんな場所だからこそ、やりがいも感じます。
競合する会社がないっていうのも大きいですね。
袴田:これからも応援しています!
留学したい方へのメッセージ
袴田:最後に、これから留学される方に向けてメッセージをお願いします。
川上:留学するってことは、音楽を勉強しに行くのがメインだと思うんですけど、その国だから経験できることをたくさん探してほしいなと思います。
色んな場所に行くとか、いろんな分野の友達をいっぱい作るとか、音楽以外の趣味を見つけるとか・・・
そういうことをやっていると、どこかで行き詰まったりしたときに助けられると思います。
知り合いは、多ければ多いほどいいと思うし、いろんな経験をしていくことによって、切り開かれる道もあります。
そうしないと、せっかく音楽家として生きていけるのに、いつかつまずいたときにどうすればいいのかわからなくなって、音楽を辞めてしまう選択を取ってしまうかもしれません。
袴田:そうですよね。「音楽家として生きる」ことはぶれずに、日頃から幅広い視野を持って活動していると、たとえ失敗しても機転を効かせて這い上がれるような気がします。
川上さんご自身が、社会人経験を積まれてから、広い視野を持ってフランスに行かれたのも、その素敵なマインドに繋がってるんじゃないかなって感じました。
川上:はい。周りと違って苦しかった部分でもありますけど、社会人を経験したから見える世界も多かったなっていうのはありますね。
袴田:幅広い視点から音楽と向き合う、素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!