皆さんこんにちは、フランス音楽留学アドバイザーの袴田です。
先日、私の母校であるパリ6区音楽院に、レッスンの様子を取材に伺いました!
学生だった頃は見えなかった先生方や学校の想いに触れ、これからは私も若い世代を応援するために力になりたい!と強く感じました。
日本の教育現場でも参考になる内容が詰まっているので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
生徒たちとの向き合い方
袴田:音大レベルの生徒さん方のレッスンで、意識していらっしゃることはありますか?
ルマリエ:まず、ほとんどの音楽院で音大レベルの生徒というのは、2パターンに分かれています。
1つ目は、生徒が6区に住んでいて、初めに音楽院に登録したとき(6〜10歳)から育てた生徒、そしてもう1パターンが、留学生やフランス人で外から受験をして入ってくる生徒ですね。
自分が初心者から育てた生徒は、生徒の良いところも悪いところも全て知り尽くしてるから、一人ひとり違った方法で教えています。
ただ現実的には、子どもの頃から同じ音楽院で音大レベルの課程まで上がってくる生徒は、多くはありません。
それに対して、留学生のように外から入学する生徒には、まず基礎力を強くするようにするのと、変な癖を矯正します。私が専門としている姿勢医学(身体の使い方)を取り入れながら、生徒が自分自身の身体を理解できるよう、レッスンしています。
呼吸法や姿勢、指の使い方やアンブッシュなど、数えたらきりがないのですが、隅々までチェックしますね。
これまで沢山の生徒を見てきたので、大体一目見ただけでどこが引っかかっているのかが分かります。
お医者さんで例えると、診察をして、処方箋を書いて、という感じです。
その処方箋が、一人ひとりに合った練習方法の提案や、生徒に合ったエクササイズなどのトレーニングのススメになりますかね。
なので、何か提案するときは、その生徒の身体に合った練習方法かどうかを特に気をつけています。
絶対にこういう指にして、ここの筋肉を使わなければいけない、というのはなくて、人によって身体の作りも違えば体力も違う。
なので、生徒一人ひとりの違いを見極めて、指導するようにしています。
袴田:ありがとうございます。
袴田:本当に千春先生のレッスンは、1人ひとりの身体や性格に寄り添ったもので、生徒さんたちが、のびのびと演奏できるようになっていくのを感じています。
今、先生のクラスには何人いらっしゃるのですか?
ルマリエ:まず、音大レベル以上の生徒では、フランス人4人、留学生の中国人2人、台湾人1人、日本人2人です。
それ以外に、子どもたちが15人ぐらいいます!
袴田:子どもたちがいるのが日本の音大とは違いますよね。
ルマリエ:そうですね。
子どもたちは、初心者として私のクラスに来て一から教えるので、やっぱり子どもが好きじゃないとできないなって思います。でも、子どもを教えるのが好きなら、子どもたちの素直な反応があるのですごく面白いですよ。この子にはこれを言ったらいいんだなというのが、パッとした変化ですぐに分かるんです。
袴田:そうですよね!子どもたちの反応から、勉強になることも多いです。
ルマリエ:10年以上も私のレッスンに来ている生徒たちは、本当に自分の子供のように成長を見てきたので、感慨深いですね。子供のレッスンでは、教育者としての責任感と子供達を育てる情熱があるかないかで大きく左右されると思います。私は、この仕事に使命を感じているので、とても楽しいです。
日本人として意識していること
袴田:先生はもう長くフランスの音楽院で教えていらっしゃいますが、何か日本人として意識していることや、大切にしながら教えていらっしゃることはありますか?
ルマリエ:はい、もうフランスに来て20年以上経ちますが、自分は日本人だっていう自覚はいつもありますね。
もちろん多少はフランス人っぽさも染み付いていると思いますが、やっぱり自分が日本人っていうのは意識するようにしています。
レッスンの中で子どもたちが練習する曲も、ジブリ音楽やアニメ音楽をはじめ、日本の音楽を多く取り扱っています。この辺りの生徒は、日本のアニメや映画、日本の文化が好きな人が多くて、日本語を勉強している生徒も何人かいるんです。
それぐらい日本ブームっていうこともあって、よく日本の曲を使っているのですが、そこで一緒にひらがなもちょっと読ませてみたり、日本語で歌ってみたり、いつも筆ペンも持っているので、漢字やひらがなを書いて説明をしたりもしています。
言葉と音楽ってすごく密に繋がっていますし、せっかく日本人の先生と日本の音楽を演奏するなら、一緒に日本の文化も伝えたいなと思っているんです。
また、音大レベルの生徒たちには、日本ならではの礼儀や、働き方も教えるようにしています。
具体的には、レッスンや合わせの時間をしっかり守ることや、私が作った発表会やコンサートのタイムテーブルをしっかり把握すること、当日自分の役割をしっかり守って行動すること、楽器の掃除、管理、使った部屋の片付けなど。
挙げたらキリがないですね。
日本では当たり前のことかもしれませんが、フランスではまずタイムテーブルすら存在しませんからね(笑)
イベント運営などの集団行動をする上で、日本の礼儀や効率性は本当に素晴らしいです。
なので、企画能力とか運営能力は、できるだけ日本のスタイルで生徒には伝えたいなと思って指導しています。
袴田:すごく面白いですね!
実際に発表会のときなど、生徒さん方が動いてらっしゃるんですか?
ルマリエ:はい、準備や片付けもしっかりやらせています。
カルテットなどは、プログラム決めも自分たちでやりますし、あとはラージアンサンブルで子どもたちと一緒に演奏するときは、大きい生徒に子どもたちをチューニングさせたりしています。
それから、音大生レベルの学生には、子供のレッスンを見学にきて、実際にレッスンをさせて、将来、自分たちが教える立場になった時の為の実習もしています。その際には、発表会で、子供とのデュオを演奏してもらいます。
袴田:それは子どもたちにとっても良い刺激になりますね!
発表会の企画は、先生がされているのですか?
ルマリエ:はい、学校が企画する全楽器共通のコンサートもありますが、サックスクラスの発表会は私が企画しています。
大体年に2、3回、バカンスの前などに開催しています。
地域の歴史文化施設や福祉施設との連携
ルマリエ:あとは、6区の音楽院が提携している区の文化施設等でのコンサートにも、生徒たちを積極的に参加させるようにしています。
特に最近、音楽院と文化施設とのパートナーシップがどんどん増えていて、生徒や先生たちがそこで演奏できるんです。
パリの6区にはたくさんの歴史文化施設があって、建物も街並みも、パリならではの素晴らしいものなんですよ。
サン・シュルピス教会やリュクサンブール美術館、リュクサンブール公園、ドラクロワ美術館など様々な文化施設のステージでも演奏できるので、生徒たちは恵まれているなと思います。
袴田:そのパートナーシップは、どんな仕組みで提携されているのですか?
ルマリエ:それは、学長が正式に各施設に交渉に行っています。
今の学長のおかげで、6区の音楽院は地域との連携ができているんだと思います。
あとは、病院や老人ホームとも提携を結んでいるので、同じように先生や生徒が演奏しに行く機会が何度かあります。
袴田:私も6区にいた時に、文化施設や老人ホームに伺いましたが、単なる「学生ボランティア」ではなく、ちゃんとその場所で音楽が共有されているのを感じたのを覚えています。
もちろん先生たちはボランティアではなく、お仕事として演奏されているんですよね?
ルマリエ:はい、もちろんです。なので、日本でよく耳にする病院や老人ホームでの演奏=ボランティアという感覚は少ないと思います。
袴田:本当にそれは、日本に帰国してから実感しています。
もちろん文化予算の違いもあると思いますが、色んな団体の連携が日本はまだまだ取れていないなと思いますね。
フランスでは、病院や老人ホームでの演奏が、資格のある仕事としても認められているくらいですから。
ちなみにそういった文化施設や病院などでの演奏は、どのようにして決まるのでしょうか?
ルマリエ:定期的に職員会議があるのですが、そこで「何月何日、どこどこで(先生向け・生徒向けの)コンサートの企画があります。興味のある先生はいらっしゃいますか?」と情報が来るんです。
そこで立候補をして、出演者が決まっていきます。
生徒たちへの想い
袴田:最後に、長年音楽院で勤務されてきて、生徒さんたちへ伝えたいことをお伺いしてもいいですか?
ルマリエ:はい。
特に留学生たちには、フランスの寛大な外国人受け入れ、安い学費、6区区役所では、リード、マウスピースなど学校の楽器演奏に必要な道具の購入、楽器の修理費捻出など、素晴らしい環境で音楽を学ばせて頂いていることを実感して欲しいと思います。
そして全ては、フランスの在住者の税金によって、それが叶っているということを理解して欲しいと思っています。
この6区音楽院で勉強して、その勉強の成果を学校外の様々な施設で演奏して、「芸術の恩返し、地域に貢献」できればと考えています。
そして、その中で見えてくることを大切にしてほしいと思いますね。
袴田:素敵な想いですね!
こういった活動の中で、自分の街の文化に誇りを持ったり、街のためにできることを考えるきっかけになれば、6区のためにも、生徒さんたちの国や地域のためにもなる気がします。
ルマリエ:そうですね。日本の学校ってまだまだ閉鎖的な感じがしますし、もっと地域との連携が取れれば色んなことがうまくいく気がするんですけどね。
袴田:はい、それは単なる予算の問題だけではなく、どれだけ街が芸術に対してオープンか、興味を持ってもらえるか、そしてどれだけ学校も街に対してオープンか。
そのあたりの差も大きいなと思います。
ルマリエ:そうなんですよ。留学生たちも安い学費で勉強できる環境に感謝して、在学中にこの街に貢献することはもちろん、この良い例を自分の国にもぜひ持ち帰ってもらいたいなと思いますね。
袴田:今日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
これからも、パリ6区音楽院の卒業生として、そしてMusic Discoveryアドバイザーとして、みなさまのご活躍を応援したおります!
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