みなさんこんにちは!フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回は、クラシック音楽をはじめ、ミュージカルやポップスなど、幅広いジャンルで活躍されるピアニスト・パリ13区音楽院伴奏科教授のクロード・コレ先生に、お話をお伺いしました!
コレ先生はピアノだけではなく、シンセサイザーや作曲、歌、そして演劇の制作も手がける、実に多彩なアーティスト。
30年近くパリ13区音楽院に務めていらっしゃる先生ですが、演奏・創作活動も尽きることがありません。
私が取材に伺ったときは、2ヶ月の音楽劇をほぼ毎日満席で上演されていて、本当に圧巻でした!
そんなコレ先生の、演奏活動や生徒さん方に対する素敵な想いを、皆さんにお届けします。
クロード・コレ Claude Collet
パリ国立高等音楽院を1等賞で卒業、複数の国際コンクールでの入賞歴を持つ。ソリスト、室内楽奏者、オーケストラのピアニストとして、国際的な舞台で定期的に演奏している。これまでに、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、イル・ド・フランス国立管弦楽団やスイス・ロマンド管弦楽団をはじめ、数多くのオーケストラのコンサートやツアー、録音に参加。また、パリ・シャトレ劇場やモガドール劇場で上演されたミュージカル『美女と野獣』のキーボード奏者としても活動。現在パリ13区音楽院伴奏科教授。
現在の演奏活動について
袴田:コレ先生は現在、どのような活動をされているのですか?
コレ:私は主に、室内楽や、オーケストラピアニストとしての演奏活動、そして音楽劇の活動をしながら、パリ13区音楽院伴奏科の教授を務めています。
中でも、オーケストラピアニストは20歳の頃から長年続けている仕事です。
フランス国立管弦楽団をはじめ、スイス・ロマンド管弦楽団、現代音楽のオーケストラやアンサンブルなど、幅広いジャンルのコンサートに参加してきました。
また、ピアノだけでなく、チェレスタやシンセサイザーも演奏しており、クラシックだけではなく、様々なジャンルのコンサートで弾くことも多いです。
袴田:それは面白いですね!
クラシック以外のジャンルも学ばれたのですか?
コレ:いいえ。音楽を学んできたのはフランスの音楽院なので、とてもクラシックな教育を受けてきました。
学校を卒業して仕事を始めてから様々なジャンルの音楽に興味を持ち、幅広く活動するようになりましたね。
そのおかげで、ミュージカルのオーケストラにもシンセサイザー奏者として呼んでいただけるようになりました。
ポップスやジャズ、ロックなど、とにかく色々なジャンルの音楽を演奏できるのが、とても楽しいです!
袴田:素敵ですね!私も今ちょうど、ウインドシンセサイザーに興味を持っているところなので、早速始めたくなりました。
コレ:ぜひチャレンジするべきですよ!
また、現在(取材時4月)パリの劇場で、2ヶ月間ほぼ毎日オリジナルの音楽劇「COME BACH」を上演しています。
歌、オーボエ、コントラバス、ピアノの編成で、演出家と一緒に1時間のコメディミュージカルを創りました。
演奏する作品は全て、私たちカルテットのオリジナルアレンジです。
ステージ上には楽譜も椅子もなく、アーティストたちは舞台をフルに使いながら、自由に・滑稽に・熱く演奏します。
いつか日本でも上演したいと思っているので、皆さんにもお越しいただける日が来るのを願っています!
袴田:私もパリに滞在中観に行ったのですが、とにかく楽しく1時間が本当にあっという間で、心からおすすめできる素晴らしい作品でした!
伴奏員、そして伴奏科教授としての教育活動
袴田:まず、先生のこれまでのご経歴を簡単にお伺いできますか?
コレ:私はもともとピアノ科出身で、パリ国立高等音楽院に進んでから室内楽や器楽伴奏、そして歌曲伴奏の勉強を始めました。
その後、25歳のときにパリ13区音楽院の伴奏員となり、40歳までたくさんの生徒や先生たちの伴奏を行ってきました。
そして40歳になった年に、同音楽院伴奏科の教授になり、教えることに専念すると決意しました。
袴田:ありがとうございます!
先生は演奏活動や、舞台などの創作活動でもご活躍されていますが、そちらの活動についてもお話いただけますか?
コレ:はい。伴奏員として働き始めてから、少しずつ作曲したり即興演奏をしたりしていたのですが、30歳になる頃に本格的に作曲活動を始めました。
私は歌うことが好きだったので、プロの歌手とユニットを組み、主にフランスのシャンソンを演奏したり作曲したりしていました。
このユニットでは、オリジナルのアルバムもリリースしましたよ!
袴田:ぜひそのアルバムを聴いてみたいです!
先生の幅広い演奏活動は、ご自身の教育方針にも影響していらっしゃいますか?
コレ:はい、色んなジャンルの音楽に触れてきたことは、私のレッスンや音楽院での企画にも直結しています。
私自身がクラシックだけでなく、幅広いジャンルの音楽から学んだことが多かったので、生徒たちにも出来るだけ色んな音楽に触れて欲しいと思っています。
たとえば、13区音楽院で開催するマスタークラスでは、毎年違ったプロのシャンソン歌手を招いてレッスンを行っています。
生徒たちには、ジャンルを問わず「今の音楽」に触れる機会を持ってもらいたいので、伴奏科のプロジェクトとして公式に企画しています。
もちろん、音楽院ではクラシックの試験しかありませんし、このマスタークラスが学校の成績に繋がることはありません。
ですが、実際の仕事では、クラシック以外の演奏機会がとても多いですし、各現場でリクエストに答えたりと、柔軟な対応が求められるシーンが多いですよね。
リサイタルの最後にポップスやジャズの曲を演奏したり、ミュージカルなどの舞台にピアニスト1人で呼ばれたりすることもあります。
なので、せっかく色んな人と一緒に演奏する伴奏科にいるのなら、どんなスタイルにもついていける、引っ張っていける存在になってもらいたいなと思っています。
袴田:素敵なお言葉ですね。
先生のアーティスティックな活動を間近で感じられるのは、生徒さん方にとってすごく刺激的だと思います!
伴奏科の授業内容、これまでの生徒について
袴田:伴奏科の生徒さんは、普段から沢山の楽譜を読んでいるとお聞きしましたが、伴奏科の授業内容についてお聞かせいただけますか?
コレ:まず、初見演奏、器楽伴奏、オーケストラや合唱のリダクション、編曲、和声付けなど、基本的な伴奏法は一通りレッスンします。
これは、フランスの伴奏科に入ったら必ず学ぶ、基本中の基本ですね。
もちろん、はじめはこれらの楽譜を「読む」ことに必死になりがちですが、経験と共に「読む」という受け身の姿勢ではなく、自発的に演奏できるようになっていきます。
初見演奏がその基本で、楽譜をそのまま弾くことではなく、音楽を素早く掴むことが目的です。
まず細かい間違いを受け入れ、演奏しながら修正する方法を学んでいく。他の人と一緒に演奏する場合、特にこの点が大切です。
演奏中に共演者が間違えたとしても、それをカバーしながら演奏を続けなければいけませんよね。
楽譜を「読む」ところで止まっていると、軌道修正が出来ません。
これが「読む」ことの先に目を向けられるようになると、演奏自体もレベルアップする生徒が多いです。
袴田:私も初見が苦手だったので、すごくよくわかります。
指が目に追いつかなくなってしまい、身体が固まってしまう感覚は、今でも忘れません。
でも、それって曲の構成が掴めていないということなんですよね。
初見はただ音を「読む」のではなく、全体を見渡して曲を掴み、細かい音を予想しながら演奏していく感覚に近い気がします。
コレ:その通り。曲の雰囲気を素早く理解して「上手に失敗する」という技を身につけられると、初見も怖がらなくなりますよ。
先ほどもお話したとおり、実際の仕事現場は、音楽院で学ぶようなクラシックのレパートリーばかりではありません。
私自身も音楽院を卒業した後、そのギャップに混乱していましたし、初めて弾いたジャンルの曲で悔しい思いをしたこともあります。
でも、視野をグッと広げて「ただ上手く弾くこと」の先を目指していれば、演奏技術全体も自然と伸びていくんです。
学生たちには、仕事の機会があればすぐに飛びついてもらいたいので、どんな楽譜でも柔軟に対応できるようレッスンしています。
袴田:初見はもちろん、クラシック以外の演奏が苦手な生徒って多いと思いますし、先生のお言葉をたくさんの方に届けたいです!
現在、13区音楽院には何年ほどいらっしゃるのですか?
コレ:伴奏員だった時代も含めると、もう30年近くになります。
私が伴奏科の教授になってからは、フランス人はもちろん、毎年アジア人を中心に留学生も多く受け持っています。
日本人の生徒も毎年のように来てくれますよ!
袴田:今まで日本に行かれたことはありますか?
コレ:はい。一度だけオーケストラのツアーで行ったのですが、とても楽しかったです!
海外へは、たまにマスタークラスなどで行くこともありますが、オーケストラのツアーに参加することがほとんどですね。
生徒たちの進路|伴奏科で学んだことは、どう生きるのか?
袴田:コレ先生のクラスを卒業されたピアニストの皆さんは、その後どのような道を歩まれているのでしょうか?
コレ:多くの学生が私の13区のクラスを出た後も、伴奏の道に進んでいます。
卒業後すぐ社会に出る生徒もいますが、半分以上の生徒は国立高等音楽院を目指しています。
伴奏ピアニストというのは、まだ一般的に認識されているような職業ではありません。
ですが、伴奏ピアニストになるには特殊なスキルが必要で、このスキルがあれば幅広い現場で活躍できるようになります。
伴奏科について詳しく知りたい方はこちら
実際、13区を卒業した学生たちは、音楽院の伴奏員として全国各地で働いていますし、教員免許を取得してピアノを教えている学生もいます。
学生のうちから、子供から大人までたくさんの生徒たちと伴奏合わせをし、アドバイスや指示を出すことも多いので、教育スキルを身につけることも不可欠ですね。
あとは、歌曲伴奏やオペラ伴奏を学んだのちに合唱指揮者になる人も多くいますし、アンサンブルピアニストとして毎日演奏活動を行っている人もいます。
伴奏科の教育を受けた生徒たちは、視野が広がって感性も豊かになり、楽器や歌、教育に関する理解も深まります。
なので、音楽院でピアノ科の先生になったとしても、生徒たちの巻き込み方や、発表会の企画が面白いことが多いですね。
演奏家として成長できるだけではなく、それが仕事にも直結するので、伴奏科はどんなピアニストにとっても魅力的だと思います!
各国の演奏スタイルの違い、そして日本の皆さんへのメッセージ
袴田:先生のクラスには多くの留学生がいらっしゃるとのことですが、国によって演奏スタイルなどに違いがあったりしますか?
コレ:一人ひとり違うので、国で分けて一般化することは出来ませんが、各国の教育方針からくる、学びの姿勢の違いはありますね。
特に日本の学生はとても真面目で、どんな課題にも一生懸命取り組んでくれます。
時間も守りますし、学生の頃からプロ意識が備わっていて、とても優秀な生徒が多いです。
ですが、その厳しさゆえに、細かい音符やリズムに囚われてしまい、全体のビジョンを見失ってしまうこともありますね。
袴田:先ほどの初見のお話とも繋がっていますね!
コレ:はい。なので、そういう学生たちには、まず演奏に柔軟性を身につけさせ、間違いも受け入れることを教えています。
それに対し、ヨーロッパの学生はとにかく自由で、全体の雰囲気や自分の感覚を大切に演奏する人が多いですね。
ですが、日本人ほど真面目ではないことが多いので、詰めが甘くなりがちです。
これらの違いは長年の経験で感じたことですが、課題への取り組み方
ピアニストが単なる演奏者としてだけでなく、総合的な音楽家として成長するために、伴奏の教育は不可欠です。
フランスの伴奏科教育が、より多くの学生にとって役立つものでありますよう、願っています。
もし興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひフランスにいらしてください!
袴田:本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。