こんにちは、フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回はフランス音楽留学サポートMusic Discovery事業をおこなう株式会社Locatell代表取締役社長の吉田佐和子に、インタビューを行いました。
ここ数年は、2020年にフランスから帰国し、法人を2社設立。2022年にはフランス国立管弦楽団首席奏者を起用した日本ツアーを成功させ、2023年9月にクラリネット奏者としての活動を休止するなど目まぐるしい変化があったとのこと。
フランス留学のきっかけや、本事業の立ち上げに込めた想いについて伺いました。
吉田佐和子 Sawako Yoshida
1986年京都府福知山市出身。大阪音楽大学卒業後、非常勤講師として1年間高校に勤務。その後、フリーランスの演奏家として故郷である福知山と大阪を中心に活動を開始。これまでに自作曲を集めた2枚のアルバムをリリース。福知山では多数の公演をプロデュースし延べ2000名を動員。2017年より3年間フランス・パリで暮らし、セルジーポントワーズ音楽院へ入学。2020年に帰国し、福知山で株式会社Locatell、一般社団法人福知山芸術文化振興会を設立、代表に就任。2021年にはフランス国立管弦楽団首席クラリネット奏者 パトリック・メッシーナと同楽団首席フルート奏者 シルヴィア・カレッドゥ氏の日本ツアーのマネジメントをつとめた。現在、芸術文化を通じたグローバル化促進事業や、地域活性化事業を多数展開している。
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フランス留学・在住のきっかけ
袴田:まずは、短期留学も含めて、音楽院への入学のきっかけを教えていただけますか?
吉田:私はもともと今年の9月までクラリネット奏者として活動していたんですが、25歳のときに大手留学エージェントを利用して、3週間の短期留学に行きました。
そのときに、この先生に習いたい!と強く感じられる方がいなかったこともあり、今すぐ留学するのはちょっと違うな、と思ってやめたんです。
でも、その後家族の転勤がきっかけで31歳のときからパリに3数年間住むことになりました。
袴田:最初の短期留学のときは具体的に何をされましたか?
吉田:2人の先生にレッスンを受けて、パリでクラリネットを学ばれている先輩にお会いしました。レッスンでは、もし音楽院に入学するならどの課程から入れるのかを教えていただきました。
また、パリでお会いした先輩には、留学されたきっかけや疑問に思っていることなどについて色々質問しました。とにかく留学に関しての情報が今のようにネットで探しても全然出てこなくて、どうやって師事したい先生を見つけたらいいのか分からなかった記憶があります。
過去の自分が実際に困った体験があるからこそ、Music Discoveryでは同じように困っている方々をサポートしていきたいと考えています。
フランスでの先生探し
袴田:フランスに3年間住んでおられたときは、どのように音楽院や過程を選ばれたのですか?
吉田:私の場合、最初から音楽院に入ろうとは全く思っていなくて。
パリに住み始めて1年目にフランス語の勉強を始めたら、勉強がすごく楽しくなって、もっとフランス語で話したい!と思うようになりました。
そして、フランス語を話すなら、音楽に関係することを話したい!という思いから音楽院受験を決めました。
まずは唯一名前を知っていたパリ・エコールノルマル音楽院のサイトにアクセスして、そこでフランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者 パトリック・メッシーナ先生が教えておられることを知りました。
その後、パトリック先生が出演されるコンサートに行って、直接レッスンを受けたいという気持ちを伝えました。
レッスンでは音楽院でパトリック先生に習いたいということをお伝えしたのですが、パリ・エコールノルマルで学ぶことは難しいと言われたので、プライベートレッスンで習うことになりました。
吉田:ちなみに、最初のレッスンはパリに行って1年目の冬くらいに受けた記憶があるのですが、フランス語だけではレッスンの意味を理解することが出来ず、拙い英語とフランス語が入り混じったレッスンになりましたね。
また、私は吹奏楽部に入部したことがきっかけでクラリネットを始めましたが、それまで出会った多くの指導者は厳しくレッスンされる方でした。
それまで日本のレッスンで怒られることに慣れていた私は「いつ怒られるんだろう・・」と思っていたのですが、課題点を指摘いただきながら褒めていただけるレッスンに驚きました。
そして、なぜ怒らないのか?と尋ねたところ「僕たち教師は、生徒の“もっと楽器を上手くなりたい”という意志をサポートするためにいるのに、どうして怒る必要があるの?」と言われ、その言葉にとても衝撃を受けました。
日本では指導者が感情的になりすぎて生徒を罵倒したり、不必要に統制をとるような風潮があると思いますが、それは本来必要ないんですよね。
その後、パトリック先生のご友人であるピエール・デュトリュー先生をご紹介いただいて、その先生が教えておられるセルジー・ポントワーズ音楽院のCOP課程を受験することになりました。課程についてはピエール先生にアドバイスいただいた課程を受験したので、他にどんな課程があるかは、詳しく調べなかったです。
フランス在住時の音楽活動について
袴田:吉田さん(以下佐和子さん)はフランスに住まれていたときにどんな音楽活動をされていたんですか?
吉田:私は作曲もするのですが、自作曲だけを集めてコンサートをしたことがありました。フルート、クラリネット、ピアノの編成で、シテ島にある小さな劇場で30名ぐらいのお客様を集めて開催しました。
また、ヤマハからブランドプロミス“Make Waves”をプロモーションするためのお仕事をいただいて、ロンドンで行われたレコーディングと撮影に参加しました。
吉田:この時に撮影した映像や音声は、残念ながら2021年1月で公開が終了してしまったため、ご覧いただくことが出来ません。
ただ、ロンドンの早朝、青白い深い霧が街に立ち込める中で撮った写真は、現在ヤマハのイヤホンのパッケージにもなっています。
フランスの音楽院で学んだこと
袴田:音楽院ではどのようなことを学ばれたんですか?
吉田:私が在籍した課程では、レッスンと現代音楽に取り組む室内楽、どんなレベルの人でも参加できるオーケストラの授業が必修科目でした。
吉田:私は音楽院で初めて本格的に現代音楽をやることになったのですが、私が師事していたピエール先生は、アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーでもあって、現代音楽のスペシャリストでした。
また、フランスに住む前は、フランスの音楽院は音楽的にレベルが高くないと入れないと勝手に思い込んでたことがところがあったんですが、そうではなくて、あらゆるレベルの人が学ぶことができるのだと実感しました。
袴田:年齢や国籍に関わらず学びの門戸が開かれていることは素晴らしいことですね。
フランスでの様々な音楽体験
袴田:音楽院以外の体験も教えていただけますか?
吉田:コンクールに出場したりすることはありませんでしたが、夏期講習会には3つ参加しました。
1つ目は、ニースの夏期講習会です。クラリネット奏者のパトリック・メッシーナ先生に習いたいと思い受講しました。日本から参加していた方もたくさんいて、ランチの時間やニースの街を散策する時間は一緒に過ごしていました。
吉田:この時は個人レッスンのほかに、室内楽のレッスンも受講していました。イタリア人とフランス人の参加者と一緒に複数回レッスンを受けて、最後にホールで発表しました。
吉田:2つ目に参加した講習会は、フランスのラ・ロシュ・ギュイヨンで行われた講習会です。こちらはオーボエ奏者のためのものだったのですが、当時通っていた音楽院でジャズのレッスンも受けており、その先生がお声がけくださいました。
吉田:この講習会は理論のレッスンとジャズのレッスンの2軸がありました。初心者コースと発展コースに分かれていたのですが、私は発展コースに入ることになりました。
ただ、特に理論のレッスンはついていくことが大変で、フランス語だけではなく英語を使わなければいけない時もあり、このときにフランス語と英語のどちらもやらなければいけないのだと痛感しましした。
オーボエ奏者のためのジャズインプロ講習会『OBOMANIAアカデミー』終了https://sawakoyoshida.com/archives/19252
吉田:3つ目に参加した講習会は、ティーニュの講習会です。こちらはニース以上に日本人がたくさん参加していました。
この時は、ロマン・ギュイオ先生にレッスンをしていただいたのですが、複数の先生のレッスンを受けることで、自分の希望するレッスンを明確にすることができました。
参加している先生も多いので、自分がレッスンを受ける先生だけでなく、レッスンの聴講をして師事したい先生が見つかる場合もあるようです。
空き時間はレッスン会場のすぐ裏手にある山に登ったりして大自然の中でリフレッシュできました。
大手留学エージェントのサービスを受けて感じた疑問
袴田:佐和子さんは過去に大手の留学エージェントに留学サポートを頼まれたそうですが、その際に満足した点と不満を感じた点について教えていただけますか?
吉田:やっぱり当初はフランスについて何も分からなかったので、私が希望する先生にアポを取っていただいてレッスンをセッティングしていただけたことや、その際に通訳の方をつけていただけたことには満足しています。
一方で、日本で海外の先生のマスタークラスを受けたことはあったものの、自分の学びたいことや今後のキャリアプランを考えた上で、自分に合った先生を見つけることは、1人ではすごく難しくて。
20代半ばで短期留学した際にも、希望する先生のレッスンを受けたものの、そこからどう考えて自分に合った先生を決めていけばいいのかは全く分かりませんでした。
また、周りの友達とか知り合いには相談出来なかったので、どうしたらいいか分からなかったんですよね。
さらに、のちのち大手留学エージェントの悪い評判を聞いたりして、自分が知らず知らずのうちに悪いサービスを受けていたのだと知りました。
20代の頃は、師事したい先生は明確にいなかったんですが、フランスに留学したいと思っていました。
ただ、高いお金を払って通訳付きのレッスンを受けたものの、その後どんな風に留学を実現すればいいのか?留学にかかる費用をどう捻出したらいいのかも分からなかったんです。
袴田:それが次の留学サポートを始めようと思った経緯にも繋がっているんでしょうか?
吉田:そうですね。こういう自分の経験があったからこそ、もっと1人1人に寄り添った留学サポートがあった方が良いのではないかと思うようになりました。
現在、2つの会社を経営していますが、基本的には自分が経験豊富な分野や自分の得意なことで事業を行っています。
今年、新規事業について考えていた時に、今回お話ししたような原体験を思い出し、今の私なら過去に留学を考える中で困っている人たちをサポートできるのではないか?と考え、フランス音楽留学支援事業「Music Discovery」を立ち上げました。
フランスでの経験が生み出したキャリア
袴田:起業家として活躍されている佐和子さんですが、フランスでの経験が、現在どんなふうに役に立っているか教えていただけますか?
吉田:フランスでの体験は、私の人生を変えてくれました。音楽以外にも、生活を送る上でも様々な刺激を受けましたね。
例えば、パリのお花屋さんや数々の美術館で触れることが出来る美しいクリエイティブ。
吉田:そして、パリに住んでいるときは美術館にもたくさん足を運びました。そういう体験の中で培われたセンスというのは、現在弊社で展開しているクリエイティブ事業のディレクションなどに活きていると感じます。
吉田:実際行っているフランス音楽留学支援の事業であったり、今後展開していく事業も、フランスでさまざまな方と出会ったことがご縁で行っています。
また、昨年日本ツアーのマネジメントをしたフランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者 パトリック・メッシーナ先生、同楽団フルート奏者のシルヴィア・カレッドゥ先生との繋がりは、パリに行くまでの私では全く考えられなかったものですね。
袴田:フランスでの経験が現在のいろいろな事業に繋がってるんですね。今回はお話いただきありがとうございました!
これからMusic Discoveryでたくさんの方々をサポートしていけたらと思います!