皆さんこんにちは、アドバイザーの井上朋実です。
今回の留学インタビューは、チェンバロ奏者・講師の石川りほさんにご協力いただきました。
リヨン国立高等音楽院の古楽科チェンバロ専攻の学士・修士課程をご卒業され、現在もフランスで活動を続けられている石川さん。
古楽科の生活や勉強内容について、詳しくお話いただきました!
石川りほ Riho Ishikawa
東京学芸大学教育学部ピアノ専攻を卒業後、チェンバロに完全転向。
2017年に渡仏し、フランス・リヨン国立高等音楽院にてチェンバロ(通奏低音/コレペティ)専攻修士号を取得。2019年ボローニャ国際チェンバロコンクールで入選、2022年度フランス音楽芸術著作権管理協会アダミより奨学金を受賞。現在はフランスを拠点とし、オーケストラやオペラ座と共演、数々の古楽アンサンブルのメンバーとして、ヨーロッパ各地で演奏をする。また演奏活動と並行し、ブザンソン、ディジョン地方音楽院にて講師を歴任。現在、マルセイユ地方音楽院講師を務める。これまでに西山まりえ、野澤知子、ジャン=マルク・エーム、イヴ・レヒシュタイナー、ディルク・ベルナー、アンヌ=カトリーヌ・ヴィネー各師に師事。
チェンバロ専攻までの道のり
井上:まず、石川さんがチェンバロを始めたきっかけを教えていただけますか?
石川:小さい頃からピアノを学び、古楽奏者である母の影響で、バロック音楽やチェンバロが常に身近にあるという恵まれた環境で育ちました。
幼い頃から、私の恩師である西山まりえ先生にチェンバロを習い、バッハが大好きなのはその頃から変わりません!
その後、東京学芸大学にピアノ専攻で入学しましたが、在学中も西山先生にチェンバロの個人レッスンを受けて、その頃にチェンバロをもっと真剣に勉強しようと思い始めました。
井上:日本でもチェンバロを習われていたのですね!
フランス音楽留学のきっかけ
井上:それでは、留学のきっかけをお聞かせいただけますか?
石川:大学4年生の時に、西山先生から「イタリアのトスカーナで行われるブルース・ケネディ主催の講習会に行ってみたら?」とご提案いただき、ピッコラ・アカデミアという講習会に参加しました。
ブルース・ケネディは世界的に有名なチェンバロ製作者です。
彼のアトリエで丁寧に作られた何台もの最高の楽器を使用し、トスカーナの田舎の開放的な環境でチェンバロだけに向き合った10日間は、今でも鮮明に覚えています。
そこでフランス人のクリストフ・ルセ先生に出会い、彼の演奏を聞いて感動しフランスに行ってみたい!と思ったのが留学のきっかけです。
また、そこにいた受講生の演奏にもとても刺激を受け、ヨーロッパのレベルの高さを実感した事からも留学を意識しました。
井上:そうだったのですね!そこからどのように音楽院を探しましたか?
石川:私の場合、周りの方にとにかく早くフランスに行った方がいいよ!とアドバイスをいただき、フランスの音楽院を検索しました。
そこで、当時リヨン国立高等音楽院(以下:CNSMDL)の学士課程ではフランス語レベルの証明がA2で良いことを知りました。(※現在はB1となっています)
その時はフランス語を全く勉強していなかったのですが、6ヶ月あればA2を取得できると思い、必死にフランス語の先生の力を借りながら勉強し、3ヶ月でA2に合格しました!
そしてCNSMDLのチェンバロ科の入試にも無事合格し、フランス留学が決定しました。
もしCNSMDLが自分に合わなかった場合、パリ国立高等音楽院の入試を受けても良いなと考えていたのですが、リヨンがとても居心地が良かったのでそのままCNSMDLに通いました。
最初はフランス語レベルがきっかけで選んだ場所でしたが、リヨンに来て本当に良かったと思います!
井上:短期間でフランス語も習得され、素晴らしいですね!
フランス語の学習法について
井上:石川さんは、フランス語はどのように勉強されましたか?
石川:白百合女子大学教授であった中井珠子先生(以下:中井先生)にマンツーマンで毎週レッスンをしていただきました。
日記を書いて、暗記して、毎週発表し、そこでもう一度添削していただき、より良いフランス語をまた暗記して・・・ということを繰り返し行いましたね。
また母もフランス語を勉強していたので、家でフランス語を2人で使って会話をしていました。
近くに同じレベルの人がいると、モチベーションが上がったのが良かったです。
とにかく切羽詰まっていたので必死に勉強し、その甲斐もあってDELFのA2を94点で合格することができました!
井上:短期間でもしっかりと勉強されたからこそ、満点に近い点数で合格できたんですね!
フランス・リヨンでの物件探し
井上:リヨンではどのように物件を探しましたか?
石川:8月末に渡仏予定だったのですが、いざ留学するとなるととても寂しくてアパート探しを先送りにしていたんです・・・。
リヨンに住んでいる先輩にFacebookなどで案内を出してもらったのですが、全く見つかりませんでした。
そして、なんとお家が見つからないまま8月末を迎えてしまい、そのまま渡仏したんです。
最初は日本人の友人の家に泊めてもらい、現地で家を探していたところ、友人にCNSMDLのリコーダー科に通うフランス人を紹介してもらいました。
彼女がちょうど引越しをしようとしているタイミングで、ルームシェアをしようという話になり、彼女のお母様も手伝ってくださり、フランスの不動産を通して一緒に住める部屋を見つけることができました。
フランス人とルームシェアをする場合も、借りる人1人ずつにフランスで働く保証人が必要なのですが、私はラッキーなことに中井先生のフランス人のご友人に頼んでいただき、保証人になっていただきました。
この時はフランス語もよく分からず、ジェスチャーで乗り切ったのですが、慣れないフランス語の授業もあったので毎日疲れすぎて20時には寝ていました!
本当に周りの方々の助けに頼りっぱなしの日々だったと思います。
井上:皆さんに支えられて留学生活がスタートしたのですね!
リヨン国高等音楽院での生活について
井上:それでは、CNSMDLでの学校生活についてお聞かせいただけますか?
石川:日本にいた時はチェンバロを学校ではなく個人で習っていたので、CMSMDLではソロの演奏ではなく沢山の奏者とアンサンブル出来る喜びが大きかったです。
古楽科にはリコーダー科、ヴィオラダガンバ科、バロックチェロ科、バロックヴァイオリン科、バロックハープ科、コルネット科、サックバット科、トラベルソ科、古楽 声楽科、そしてチェンバロ科があります。
チェンバロ科では毎週1時間のソロのレッスンがある他に、通奏低音と呼ばれる伴奏法のレッスンが毎週1時間、即興のレッスンが当時は毎週1時間(現在は30分)とさらに様々な先生のアンサンブルのレッスンを受ける事ができます。
通奏低音のレッスンでは、簡単に言うと左手のバス単旋律にどのように右手をつけるかを学びます。
おおよその規則はあるのですが、ある意味右手は即興をしなくてはならず、チェンバロ奏者はその時代や国の様式を用いて伴奏することが求められます。
そして、即興のレッスンでは今日はイタリアの17世紀のスタイルで演奏してみよう!とか、18世紀のフランスのダンスのスタイルで、アルマンド、サラバンド、といった様式によって弾き分ける即興のレッスンがあります。
クラシック以降の音楽より構成が簡単なので、形式を理解することで弾き分けることができます。
私は即興の勉強を日本ではしてこなかったので、ソロのレッスンで形式を叩き込んでいただき引き出しを増やしてからアウトプットする練習を繰り返しましたが今でも難しいですね・・・。
井上:とても興味深いレッスンですね!
石川さんは入学してすぐに伴奏も沢山引き受けていましたか?
石川:私の学年にはチェンバロ専攻で2人しか入学しなかったのですが、もう1人の子が休学してしまい、私1人になってしまったため必然的に伴奏を引き受ける機会が多かったです。
結果的に沢山の経験を積むことが出来ました。
スケジュールとしては、ソロのレッスンの他に、合わせと伴奏のレッスン、そして装飾法や合唱などの座学の授業がありとても忙しかったです。
古楽科ならではの授業があり、1年目は中世、2年目はルネッサンス、3年目はバロックと時代ごとに分かれており、その時代の理論、歌唱、合唱、記譜法を同時に学びました。
なんと必須科目としてダンスの授業もありました!
井上:みんなでバロックダンスを踊ったのは忘れられません。
私も同じ学校に通っていましたがダンスの授業があることは知りませんでした!
修士課程の論文テーマについて
井上:学士課程から修士課程に進んで変わったことはありますか?
石川:修士課程ではもっと専門的に学ぶことが要求されます。
一番留学生にとって大変なのは論文を提出することですね。
論文を完成させるためにまず論文のテーマを決め、テーマに合った授業を履修します。
私の論文のテーマは「17世紀半ばのローマにおける宗教音楽における通奏低音の形成」だったので、17世紀イタリアの歴史、宗教的背景、当時活躍していた作曲家などを深く調べ、カリッシミという作曲家のオラトリオ(小さなオペラ)について研究し、その当時の通奏低音を再現しようと試みました。
実際に修士リサイタルで19人もの学生にお手伝いしてもらい研究発表を弾き振りして演奏できたことは生涯の思い出です!
当時は指定されたページ数以上の論文を提出する方法しかなかったのですが、現在は以前よりも少ないページ数の論文を提出し、演奏付き講演という形式で発表するという方法も出来たので、文章を書くのが苦手な方には嬉しい知らせですね!
井上:自身の学びたいことを突き詰められるのは修士課程ならではですね。
フランスでのお仕事、音楽院卒業後の生き方
井上:石川さんは在学中から働かれていたとのことですが、詳しいお話をお聞かせいただけますか?
石川:はい。ブザンソン地方音楽院古学科の伴奏院で働かれていた方が産休に入ることになり、その方の代わりとして週8時間、私が働くことになりました。
担当したクラスには子供たちが多く、この経験を通してフランスの音楽教育を知ることができました。
小さい頃から興味を持てば誰もがチェンバロや様々な古楽器に触れる機会があるのはとても羨ましいですね。
また先生という立場ではなく、共演者という近い立場で音楽を支えられる伴奏というお仕事が好きだな、ということを実感したんです。
井上:それでは、CNSMDL卒業後の現在の活動について教えていただけますか?
石川:運よくディジョン音楽院のチェンバロの先生(ハーフタイム)とマルセイユ音楽院の通奏低音の先生の求人が合ったので応募したところどちらの音楽院にも雇っていただけることになりました!
マルセイユ音楽院では生徒たちの伴奏も仕事内容に含まれていたんです。
その翌年、ディジョン音楽院を辞め、現在はマルセイユ音楽院でフルタイムで働いています。
13歳から30歳までの生徒さんにレッスンをしていて、子供達に通奏低音を教えるのはなかなか大変で苦労しますがやり甲斐を感じています。
井上:卒業後も講師としてフランスで働かれていらっしゃるのはすごいです!
フランスのアーティスト・ビザについて
井上:現在のビザについてお聞かせいただけますか?
石川:はい。私は現在アーティストビザ(Passport talent)を取得しフランスに滞在しています。
アーティストビザとは、フランスにおいて3カ月以上の滞在予定で、経済分野と文化、科学、スポーツ分野において報酬を伴う活動を目的とした方に適応されます。
ブザンソン地方音楽院で働いていた時はまだ学生ビザで働ける範囲内だったので学生ビザのままでしたが、CNSMDLを卒業後、アーティストビザに変更をしました。
ビザの変更は外国人にとってとても難しいのです。
特にアーティストビザはいかに自分が有能で、フランスに取って有益な人材であるか、貢献できるかを証明しなければなりません。
条件としては、アーティストビザに変更する際に、すでに報酬を伴う音楽活動をしていて、かつ今後の活動予定の見通しが立っていないと申請ができません。
私の場合、学生の時から貪欲に自分から仕事を探す勢いで学生生活を送っていたため無事にアーティストビザを取得することができました!
幸運にも修士課程2年生の時にブザンソン地方音楽院で働いていた雇用契約書と、数々のコンサート、講習会の伴奏、オペラリヨンの大きなプロジェクトに携わったことを書類として提出しました。
申請時には先の予定として音楽祭への出演依頼が決まっていたり、ディジョンとマルセイユの音楽院で教えることも決まってたことから、無事に1回の申請で受理されてとても嬉しかったです!
ただ、ビザの有効期限が1年のため、期限が切れる前に毎年更新の手続きをしないといけません。
1回目の申請が一番難関と言われているのですが、毎年ビザが取れるかドキドキします。
音楽活動について
井上:それでは、石川さんの音楽活動についてもお伺いできますか?
石川:院生時代に下の学年にとても優秀な子がいて、アンサンブルのグループを組もうとお誘いをいただきました。
そこで若手アンサンブルグループの初代メンバーとして活動を始めたんです。
La Nebuleuse(ラ・ネビュルーズ)という名前で活動しています。
最近はベルギーで1st CDの録音も行いました!
他にも古楽オーケストラの指揮者からご連絡をいただいたり、CNSMDL時代の先生の代理として演奏することもあります。
お城や教会での本番が多く、ヨーロッパの美しい歴史ある建物で素晴らしい残響の中で演奏できることもフランスに残りたい理由の一つなんです。
井上:とても貴重な経験ですね!
フランスに音楽留学したい人へのメッセージ
井上:最後に、これから留学したい人へのメッセージをいただけますか?
石川:迷ったら即行動!
もし少しでも留学に興味があるのであれば、すぐにお知り合いやMusic Dsicoveryのアドバイザーに相談することから始めてください。
留学経験者はみんな誰かに助けてもらっているので、その恩返しをするつもりでとても優しく丁寧に教えてくれると思います。
またフランス語の勉強、TCFやDELFなどの資格獲得は計画的に!!
昨今のフランスの地方音楽院、国立音楽院に通うためには最低B1以上が必要です。
学校によっては入試までに用意しなければいけないところ、入学までに用意すれば良いところ、様々なので注意が必要ですね。
言語が足を引っ張って留学できない!ということがないようにフランス語学習は大切です。
最後に、フランスでは28歳以下だと学割など金銭面でお得なことが多く、若いうちに留学できる方は金額を押さえて留学をすることが出来るので、早めの行動をおすすめします!
井上:留学を意識したらぜひ気軽に無料カウンセリングを受けていただきたいですね。
本日は、貴重な経験をお話いただきありがとうございました!