みなさんこんにちは!フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回インタビューに協力してくださったのは、作曲や演奏、音響や企画プロデュースまで幅広く活動されている、筒井香織さんです。
筒井さんは、日本で社会人経験を積んだ後、30歳を過ぎてからフランス留学を決意され、日本のお仕事を続けながら留学を実現されました。
留学中から、フランスをはじめとしたヨーロッパでもお仕事をされているという筒井さん。
現在は、日本とフランスの2拠点で幅広く活動されていますが、一体どのような道を歩まれてきたのでしょうか?
筒井 香織 Kaori Tsutsui
4歳でピアノ、小学校の合奏部でリコーダー、6年生からクラリネットを始める。現在はパリと東京を拠点に、NHK国際放送、ソニー、任天堂はじめ多数のゲームやアニメーション、TV番組等で作曲や演奏を手がけ、フランスでは地方ガブリエルフォーレ音楽院、ポール・クローデル財団等からの公式委嘱、演劇音楽、フランス、 ドイツ、ベルギー等、主に欧州各国にて現代音楽新作の作曲活動を行っている。高松第一高等学校音楽科を経て、武蔵野音楽大学大学院クラリネット専攻修了、エコールノルマル音楽院 作曲高等ディプロム課程を審査員満場一致の賞賛付き主席で卒業。即興演奏、電子音楽、管弦楽法等、多数のディプロムを取得後、パリ国立高等音楽院委託聴講生、Ina及びIRCAM研修生、CM19&5、CRR93等で電子音楽、立体音響芸術の研究を行う。主にClarinetteを石川孝司、Kálmán Berkes、Guy Deplus、作曲、オーケストレーション、対位法、フーガをMichel Merletの各氏に師事。アルフォンテミュージック作曲家、立体音響、VR設計、洗足学園音楽大学作曲講師
アルフォンテミュージック
現在の活動について
袴田:まず、筒井さんの現在のお仕事からお伺いできますか?
筒井:はい。本業は作曲家で、劇場の音楽を作曲したり、フランスの音楽院やアソシエーション等から委嘱を受けて作曲をしたり、最近は日仏で劇場や大使館ホールで音響エンジニアとしてのお仕事もさせていただいています。
他には、ゲーム音楽やアニメの音楽の作曲、立体音響を使ったメディアアート系のコンテンツ制作、コンサートの企画開催、そして、50歳になったら始めようと考えていた、音楽大学での作曲のレッスンや講義などもさせていただいています。
袴田:ありがとうございます。すごく幅広いお仕事をされているのですね!
留学のきっかけ
袴田:では、筒井さんの留学のきっかけをお伺いできますか?
筒井:私はもともとクラリネット専攻だったのですが、大学院の時に少し楽器を吹けなくなった時期があり、それを機に他の仕事にも挑戦しようと、ゲーム会社でアルバイトを始めました。
ちょうど音楽部門の方が大学の先輩で、DTMに興味を持って機材を触らせてもらったりしていたのですが、しばらくしたらその方が退職されたんです。
それで、社長から突然その方の代理を命じられ、未経験から急にPlayStationの為に作曲をすることになりました。
袴田:いきなりお仕事から始められたのですね!
筒井:そうなんです。ですが、その後すぐに会社は無くなってしまいました。
そこから個人で音楽の依頼を請け負うようになったのですが、徐々に抱えきれなくなり、自分の会社を設立して10年ほど日本で作曲のお仕事をしていました。
作曲の仕事を始めてからは、2週間くらい睡眠がほとんど取れない日もあるような生活を何年も続けてしまいました。
忙しいと言うよりも、曲を作ることが好きで、延々と時間をかけてしまったための結果ですが。
そのように仕事のために何百曲も曲を作ってきましたが、締め切りのサイクルで、かなりのスピードで曲を書くため、じっくり作品に向き合いたいなと思うときもあったんですよね。
それで、ちょうど私が30歳になったときに、少しだけ仕事が落ち着いた時期がありまして。
「今が作曲を勉強するチャンスだ!」と思ったんです。
もっと基礎から学び、広い知識の海に出て欲望のままに勉強したい、という思いがありましたし、あとはフランスの音響学にも(歴史も含めて)すごく興味があったので、この国でどのような事が行われているのか見たり、歴史や技術を研究したいとも思っていました。
なので、少し仕事が落ち着いたタイミングでフランスに行こうと決め、1年ほどかけて準備をしてから渡仏しました。
袴田:そうだったんですね。
差し支えなければ、クラリネットをお休みされてからのご様子をお伺いできますか?
筒井:はい。作曲の仕事を始めてから数年で演奏活動を再開することができました。
そのころは作曲の依頼で忙しくなっていましたが、ゲームのお仕事のご縁で、プログレのユニットで演奏させて頂いたり、JazzやRockの方々と演奏をさせて頂く機会もあったり、ジャンルを超えて沢山演奏できて嬉しかったです。
袴田:未経験からのお仕事、そして演奏活動と、相当な忙しさが感じられますが、演奏が続けられて何よりです!
留学先、留学生活について
袴田:留学先は、どのように決められたのですか?
筒井:留学を決めた時点で30歳を超えていたので、公立の音楽院には受け入れてもらえないと考え、当時年齢制限がない私立の音楽院の中から、エコール・ノルマル音楽院(=以下エコール・ノルマル)の Michel Merlet(ミシェル・メルレ)先生のクラスに登録しました。
幸運なことに、当時入学のための面接を担当してくださった副学長のマンサール先生から、君のキャリアならクラリネットのクラスに入るチャンスがある、とGuy Deplus(ギィ・ドゥプリュ)先生クラスの最後の代に入れてもらうことができて、そこから数年間、先生からコンポーザーお嬢さん(Mlle composer)という愛称で呼んでいただき、毎週ご自宅のレッスンに通い、先生の晩年に寄り添うような、夢のひと時を過ごさせていただきました。
袴田:年齢を気にせず、著名な先生のもとで学ぶことができるのは、エコール・ノルマルの良さですよね!
作曲の授業では、どのようなことを学ばれたのですか?
筒井:1年目は、対位法、管弦楽法や和声書法など、音楽大学生が当たり前に通ってきたような基礎を学びつつ、メシアン以後の現代音楽の書法を専門に学びました。
袴田:エコール・ノルマルで印象に残っていることはありますか?
筒井:フランスで初めて通った学校ですので、とにかく全てが新鮮で毎日感動の連続でした。
同時に、それまで作曲はアカデミックを通らず、フランス語もほとんどゼロからフランスに行ってしまったので、最初の方は悲惨でした…
特に、対位法やフーガの授業には全くついていけず、先生の仰っていることもわからず、毎日泣きながら帰っていましたよ。
袴田:そうだったんですね。
筒井:それに、フーガ担当の先生が結構厳しい方で、何か強く言われているのは分かるものの、なんと言われているのかは分からなかったので、フランス語のわかる友達に聞くと「何と!間の抜けた楽譜!と言われてるよ」なんてこともありました。
それでも、4〜5ヶ月目からは少しずつ言葉が理解できるようになって、徐々にフランス和声が紐解けるようになると、どんどん学習の深みにはまっていきました。この1年は仕事をあまりせず、毎日8時間くらい楽譜を書いて音に向き合う時間があり、とても幸せな時期でした。
メルレ先生は本当に優しくて、常に楽譜の中から生徒のいい部分を見つけ褒めて伸ばされていて、その姿勢に感動しました。このクラスに入れたことが本当に幸運だったと思います。
袴田:ありがとうございます。
エコール・ノルマルを卒業後も、研究は続く
袴田:エコール・ノルマルを卒業後も、留学生活を続けられましたか?
筒井:はい、同じく私立音楽院のスコラ・カントルム音楽院に通いました。
袴田:スコラ・カントルムの方も作曲科で学ばれたのですか?
筒井:はい。ノルマルではメルレ氏のもと現代音楽の作曲を学んだのですが、スコラでは同氏からフランス和声、オーケストレーション、対位法、フーガ等の伝統的な書法を中心に学ばせていただきました。
袴田:そうだったのですね!
エコール・ノルマルとスコラ・カントルムには合計で何年ぐらいいらっしゃったんですか?
筒井:2つ被っていた時期もありますが、それぞれ3〜4年ほど在籍させていただきました。
実は並行して、地方音楽院の電子音楽科や即興科、パリ5区と19区コンセルバトワールの電子音楽科にも在籍していました。
また、その後も電子音楽をもっと研究するため、フランス国立音楽音響研究所(IRCAM)や、パリ国立高等音楽院に推薦状を書いてもらって研究生や聴講生として通ったり、一般のプロの方が参加できる研修などにも積極的に参加していました。
そうこうしているうちに、少しずつ劇場やフランスの一般企業からお仕事をいただくようになって、フリーランスとして活動し、マイクロエンタープライスを設立してお仕事を続けています。
袴田:大学卒業後から作曲を始められて、30歳を超えてからでもここまで追求することができるなんて、本当に素晴らしいです。
今までにはない体験談がお伺いできて、すごく面白いです!
筒井:そうですよね。年を重ねてから留学するには勇気も必要で、なかなか難しいですよね。
袴田:はい、フランスは年齢制限が厳しいことから、社会人留学に関する情報も少ないですしね。
でも、Music Discoveryアドバイザーの吉田も32歳で音楽院に入学していますし、社会人経験を積んでいるからこそ実現できる留学の形を、私たちは全力で応援していきたいと思っています!
日本とフランスの仕事をしながらの留学生活
袴田:筒井さんは、留学中に日本の活動も続けられながら、パリに滞在されていたんですか。
筒井:そうですね、日本の取引先様からご依頼を受けたらパリで制作・録音をして完パケで日本に納品というような形でお仕事をしていました。
袴田:留学中も、オンラインで日本とのお仕事が続けられるのはいいですね!
フランスでのお仕事は、どんなことをされているのですか?
筒井:音響の会社や、演劇を作る方とのコラボレーションが多いです。
新作演劇に合わせて音楽を制作したり、劇場の音響の仕事もフランスで始め、パッケージ受注で、音響(時には照明も)、コンピュータ制御のプログラムを作成して、ひとりで全部担当したりもしていました。
作曲、編曲、演奏者手配、録音、MixMasteringを経て音源制作、ステージでの音響等の音に関わる部分を全てパッケージで請け負う方法もよくありました。
あとは、日本の方がフランスで演奏されるときのサポートもさせていただいています。
それはもう頼まれたことを何でもやっていく感じになるのですが、機材の手配、ライブハウスの方との交渉・通訳、PAのお手伝いなどです。
小規模サロンでライブされることなどもあって、そのときは音響資機材の設置から、ミキシングや同時録音とか、PAをしながらクラリネットやピアノを演奏することもありました。
袴田:ありがとうございます。留学生活から、そんな風に現場の仕事へとどんどん繋がっていくことって、なかなかできることではないと思います。
筒井さんはどのように、これらのお仕事を手にされてきたのでしょうか?
筒井:自分では自覚がないのですが、友人などに言わせるとコミュニケーション能力が高い(警戒心がない?)そうで、音楽のおかげか、国籍や身分に関わらず結構すぐ知り合いが増える癖がありました。
皆さん良い人だったので、いつも沢山助けて頂きました。
持ちつ持たれつ、繋ぎ繋がれ、のような感じで色々な人と関わる中で、少しずつ自然と仕事が増えていきました。
袴田:素晴らしいですね!
筒井さんのように、フランスでアクティブに活躍されている方がいるのを、ぜひたくさんの方に知ってもらいたいなと思いました。
筒井:いえいえ、貧乏暇なしっていう感じでしたが…(笑)
これから留学したい人へ。社会人経験を積んだからこそできることとは?
袴田:最後に、これから留学したい方に向けてメッセージをお願いします。
筒井:はい。
私は社会人経験を積んでから留学したのですが、自分で稼いだお金を自分に投資するような感覚でした。
フランスは学費も国が負担することが多いですし、とにかく学びのベースができており、多くの素晴らしい音楽家で溢れているので、年齢は気にせずとにかく行ってみたらいいんのではないかと思います。
ただ、将来設計や帰国後の生活、留学した後のビジョンは持っていた方が、留学期間の方向性など上手く行くと思うので、行けば何とかなるというような言い方で、無責任にはおすすめできないところもあるように思います。
でも、留学してやりたい事が見えているけれど社会人だからやめておこう、というように思われている方には、ぜひ行くべしとお薦めしたいです!
袴田:ありがとうございます!
社会人経験を積んだからこそ、実現できたと思われるエピソードはありますか?
筒井:はい。自分が長くパリにいることができているのは、日本でお仕事の基盤ができていたからだと感じてます。
留学時期と被ってネットワークインフラ技術発展のおかげで、フランスでも日本のお仕事を続けられたのは幸運でした。
袴田:そうですよね。やっぱり、オンラインでどこの国とも繋がれるのはいいですよね!
私たちも、そんな働き方をサポートできるようなお手伝いができればいいなと思っています。
お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
筒井香織さん コンサート情報
洞窟の森 / La grotte dans la forêt
〜立体音響による物語コンサート〜
(公益財団法人かけはし芸術文化振興財団助成事業)
日時
2024年10月6日(日)16:00 (15:30開場)
会場
ラパンエアロ
東京都渋谷区神宮前5 – 4 4 – 2
チケット料金
前売 3 , 0 0 0円
学生 2 , 5 0 0円
チケットお問合せ
070-8410-1729(アルフォンテ)
出演
筒井香織 クラリネット
今井貴子 フルート
モリス真登 バソン