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パリ、そしてマンハイムへ。フランスならではのレッスン・演奏活動の魅力とは|トランペット奏者・髙松圭佑インタビュー#26

みなさんこんにちは、アドバイザーの袴田美帆です。

今回は、札幌市出身のトランペット奏者、髙松圭佑さんにお話を伺いました。

東京藝術大学を経てパリ国立高等音楽院学士課程を首席卒業後、現在は交換留学先のドイツで研鑽を積まれている髙松さん。

日本とフランスでのレッスンの違いや、ヨーロッパならではの音楽活動など、これから海外留学を目指す方にとって、大きなヒントとインスピレーションが詰まったインタビューとなっています!

髙松 圭佑 Keisuke Takamatsu
札幌市出身。東京藝術大学音楽学部、同大学院音楽研究科修士課程を経て、パリ国立高等音楽院学士課程にてMarc Geujon, Alexis Demaillyのクラスを、満場一致の最優秀賞及び特別賞を受賞し首席で修了、現在同音楽院修士課程に在学。同時に交換留学奨学生としてマンハイム音楽大学にてAndre Schochのクラスに在籍。第87回日本音楽コンクールトランペット部門入選。パシフィック・ミュージック・フェスティバル2023、24参加。パリ管弦楽団2024アカデミー生。日本とフランスでプロオーケストラに客演し、パリオペラ座ではオペラ6公演、バレエ3公演に参加。サキソフォニスト上野耕平率いる吹奏楽団、ぱんだウィンドオーケストラメンバー。

目次

楽器を始めた経緯・フランス留学のきっかけ

パリ管弦楽団アカデミーの様子、フィルハーモニー・ドゥ・パリでパリ管弦楽団メンバーとアカデミー生によるオーケストラ演奏会

袴田:まず、髙松さんが音楽を始めたきっかけを教えていただけますか?

髙松:もともと4歳からピアノを習っていたのですが、小学校で吹奏楽部に入ってから本格的に音楽に取り組むようになりました。

小学校から高校までずっと吹奏楽をやっていて、特に高校時代は3年間のほとんどの時間を部活に費やし、3年生の10月まで続けました。

その後、大学は東京藝術大学に進学しました。

袴田:音楽漬けの学生生活だったのですね!

では、フランス留学を目指したきっかけをお伺いできますか?

髙松:明確なタイミングは覚えていないんですが、小・中学生の頃から漠然とフランスには興味があったんです。

ですが、その頃は楽器とは関係なく、ただフランスに行ってみたいという気持ちだけでした。

留学を真剣に考え始めたのは、大学4年生の時、コロナ禍で実家に戻っていた時です。

コロナで演奏の仕事がなくなって、将来に対する不安が大きくなった時期でした。

そこで、今まであまり考えてこなかった、大学卒業後について真剣に考える時間ができたんです。

演奏家としてもっとスキルを高めたいという気持ちが強くなり、大学院進学か、留学するかを真剣に考えるようになりました。

袴田:大学4年の春って、進路について考える時期でもありますしね。

髙松:はい。周りのみんなは当たり前のようにオーケストラの入団試験を受け始めていて、いつの間にか「自分もそうしなければならない」と思い込んでいました。

でも正直なところ、その頃はまだオーケストラにはあまり興味がなかったんです。

周りに合わせて自分もその方向を考えていたんですけど、何となく違和感があって…

そこで自分と向き合った時に、卒業後すぐにフリーランスになってオーディションを受けながらもらえる仕事をこなしていくという道よりも、もっとソロについて学びたいと思うようになっていきました。

トランペットや音楽自体を深く学ぶために、より勉強の時間を確保したかったんです。

袴田:そこで、幼い頃からのフランスへの憧れが結びついたのですね。

髙松:はい。そこでフランスの音楽学校や教授について調べ始めたところ、パリ国立高等音楽院(以下:CNSM)の先生方が、現役のソリストとして活躍されていることを知りました。

彼らは今でもCDをリリースしたり、コンチェルトやリサイタルを行っていて、かつ教授やアシスタントの4人全員がオーケストラでも現役のプレイヤーなんです。

CNSMならトランペットにとって重要なソロ作品を深く学べると同時に、オーケストラのプレイヤーとしても将来的な選択肢を広げられる環境が揃っていると思い、ここしかない!と受験を決めました。

袴田:すごくいい視点から考えられていましたね!

髙松:ただ、同時に東京藝術大学大学院への進学準備も進めていたので「自分はどこへ進むべきなんだろう」と迷った時期もありました。

そんなとき、恩師から「もちろん全て簡単な道ではないけど、やりたいことには全て挑戦したらいい」というアドバイスをいただいたき、最終的には大学院受験とCNSMのどちらも挑戦することにしました!

袴田:コロナ禍に、しっかりと自分と向き合って決断されたのですね。

パリ国立高等音楽院の入試について

PMF2023にて、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団Tamás Valenczeiと、アカデミーメンバー。ここで出会った友達は今でも連絡を取る大切な存在です!

袴田:CNSMの入試について、どこが一番日本違うと感じられましたか?

髙松:試験課題の発表が、日本と比べて遅いことですかね。

2次試験の課題曲は1ヶ月前、楽器によっては8日前に発表される課題もあるんです。

袴田:そうですよね。私がCNSMを受験した時も、課題曲の発表前はドキドキでした!

髙松:あと、僕が受けた時はコロナの影響もあり、1次試験はビデオ審査で行われました。

指定されたエチュードと、自分で選んだコンチェルトを録音して提出し、1ヶ月ほどで合格通知が来て、2次試験への招待を受けました。

ですが、その頃はちょうど国境が封鎖されていた時期で、日本からフランスへの渡航が難しい状況だったんです。

大使館などにも問い合わせて特別措置を得ようとしたんですが、うまくいきませんでした。

どうなるんだろうと思って不安だったのですが、最終的には直前に出国制限が緩和され、急いでフランスに向かいました。

袴田:それは大変な時期でしたね。

フランス到着後は、どのように準備を進められたんですか?

髙松:フランスに着いてからは、現地の日本人や知人に助けてもらいながら準備しました。

試験課題が発表されたのは1ヶ月前だったのですが、その譜面は初めて見る曲で…

日本で指導を受ける時間はほとんどなく、フランスに着いてからは自主練習を積み重ねました。

試験の3週間前にフランスに到着し、そこから本格的に準備を始めたので大変でしたね。

フランスの試験では毎年新しいプログラムが発表されるので、事前準備の期間が限られていて、短期間で譜読みを終えて試験に臨まなければいけません。

音楽留学に向けたフランス語学習

選択授業でのピアノの試験でサックスとデュオ。他の楽器とのアンサンブルは勉強になり、楽しいです!

袴田:髙松さんのフランス語学習について教えていただけますか?

髙松:CNSMを受験するとは決めたものの、その前の9月に日本の大学院入試での語学試験があったので、まずは英語の勉強に集中していました。

なので、本格的にフランス語に取り組み始めたのは、大学院入試が終わった10月からですね。

袴田:フランス語の勉強はどんな方法で進めたんですか?

髙松:主にオンラインレッスンで学びました。

フランス人の先生を紹介してもらい、日本に住んでいるフランス人の先生からZoomで教わる形でした。

最初は友人と一緒に2対1で受けることもありましたね。

レッスンの頻度は週1回か、2週間に1回のペースで進めていました。

フランスに来てからは、トランペットのクラスメイトが僕以外全員フランス人だったのもあり、周りのみんなのおかげで比較的早い段階でコミュニケーションを取れるようになれたかなと思います。

完全にゼロからのスタートだったので当時はかなり大変でしたが、その努力が今の音楽院での学びに繋がっていると感じています。

フランスと日本のレッスンの違い

卒業演奏会の様子、40分ほどの一般公開のリサイタルで、卒業生や各地のオーケストラプレイヤーなど多くのお客様が来てくださります。

袴田:フランスに留学してから、フランスと日本のレッスンにはどんな違いがあると感じますか?

髙松:一番違って苦労したのは、レッスン中のコミュニケーションです。

最初は挨拶や自己紹介程度しかできなかったので、レッスンでのやり取りが本当に難しく感じました。

特にフランスでは、トランペットのレッスンが基本的にグループ形式で行われます。

1人が真ん中で演奏し、先生が指導して、それを他の生徒が聞くというスタイルで、レッスン中もみんなが参加するんです。

新学期が始まって数回目のレッスンだったと思いますが、ある生徒が演奏を終えた後に、先生が全員に「今の演奏についてどう思う?」と意見を求められました。

その時期は9月で、私はまだフランス語がほとんどできなかったので、すごく焦りました。

自分の順番が回ってきたときに、何も言えずにただ「いいね」と答えるしかなかったんです。

袴田:その最初の気持ち、すごくよく分かります。

身体が固まってしまうような感じで、すごくストレスですよね。

髙松:そうなんです、でも先生はすごく優しくて「そうだね、ありがとう。フランス語は難しいよね。でも、遠慮せずに言ってみよう。誰かの成長のために素直に意見を言うことは大切だから」と励ましてくれました。

でも、やっぱり内心ではすごく悔しかったです。

自分なりに音楽を聴いて感じることはあったのに、それを言葉にできなかったから。

特に、他の生徒たちはそれぞれの視点で良い点や改善点を指摘していたので、自分ももっと言いたかったんですよね。

袴田:そうですよね。日本ではやはり個人レッスンが主流ですか?

髙松:はい、日本では基本的に全て個人レッスンです。

先生との一対一の時間が大切にされていて、他の生徒がその場にいることはありません。

そのため、他の生徒の前でコメントしたり、意見を交換する機会があまりないんです。

お互いに指摘し合う文化も少ないので、フランスのレッスンスタイルは本当に新鮮でした。

フランスで印象に残っているコンサート

 藝大時代の仲間とドイツで再会、各地で頑張ってる姿が励みになります!

袴田:留学中に特に印象に残っているコンサートはありますか?

髙松:そうですね、パリ・フィルハーモニーがすぐ隣にあるので、パリ管弦楽団の演奏を聴く機会が多いんです。

袴田:特に学生にとっては本当にありがたいですよね。

髙松:割引券もありますしね!

フィルハーモニーのコンサートで一番心に残っているのは、ラヴェルのピアノ協奏曲を聴いたときです。

確か留学1年目のフィルハーモニーでのコンサートだったと思います。

演奏が始まった瞬間、まるでオーケストラの音が目に見えるようにキラキラと輝いていて、信じられないほど美しかったです。

特にパリ管弦楽団によるラヴェルの音色は感動的で、今でもその感覚が忘れられません。

もともとラヴェルが好きだったのですが、フランスの一流オーケストラが演奏するフランス音楽を生で聴けたことは、自分にとって特別な経験でした。

このコンサートを通じて、自分がフランス音楽を本当に好きだと再確認しましたし、フランスのオーケストラで演奏したいという強い気持ちが芽生えました。

それまでは勉強に集中していて、どこで演奏したいかあまり考えていなかったんですが、その瞬間「このオーケストラに混ざって演奏したい」という思いがはっきりと湧いてきたんです。

袴田:ただ音楽の美しさだけでなく、演奏を聴いたことでご自身の夢や目標が明確になったというのは、とても素敵ですね!

パリ国立高等音楽院からドイツへの交換留学

交換留学先の恩師、元ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の Andre Schoch、歳も比較的近く一緒に楽しく勉強しています!

袴田:この9月から交換留学をされているということですが、そのきっかけや経緯についてお聞かせください。

髙松:はい、音楽業界でも国際化が進んでいて、例えばフランスのオーケストラでもドイツの作品を演奏する際には、ドイツ式のトランペットに持ち替えて、作曲家が求めた音楽を再現するよう努めるんです。

フランスに3年間住んでいるうちに、フランスとドイツの音楽スタイルの違いを感じることが多くなって、ドイツの音楽に対して興味が湧いてきました。

その時、Erasmusというヨーロッパの交換留学制度のことを思い出して、CNSMで5年間勉強する中で、短期間でも別のスタイルの中で学んでみるのは良い経験だと思うようになりました。

短期間で完全にドイツのスタイルを習得するのは難しいかもしれませんが、そこで生活し、言葉や演奏に触れることで新しい引き出しが増えるだけでなく、逆にフランスのスタイルもより鮮明に見えるんじゃないかと感じたんです。

袴田:具体的にはどのようにして留学先を選ばれたんですか?

髙松:実は、以前から興味を持っていたドイツのトランペット奏者がちょうど2024年の夏にオーケストラを退団して、大学の教授になるという話を聞いたんです。

それで思い切ってその先生に直接連絡を取り、試験を経て今年から一緒に勉強できることになりました。

フランスでの演奏活動について

 パリ音楽院での恩師、パリオペラ座スーパーソリストの Marc Geujonとの学外で一緒の本番、お父さんみたいな存在です!(笑)

袴田:フランスでの活動で印象に残っていることはありますか?

髙松:特に印象深いのは、パリオペラ座でのお仕事です。

オペラの作品では、たくさんのトランペットが必要になることが多く、特にバンダ(舞台とは別の位置で演奏するアンサンブルやファンファーレ)での演奏で、学生は時々エキストラとして呼んでいただけます。

私の先生がパリオペラ座のオーケストラでソロトランペットを担当していることもあり、私はパリでの2年目に、初めてバンダのエキストラとして参加しました。

袴田:学生たちがそのように経験を積めるのは素敵ですね!

髙松:はい、私もそこから定期的にオペラのバンダでの演奏に呼んでいただけるようになり、約1年間、いろんな公演に参加しました。

そして3年目になったとき、初めてオーケストラピットの仕事を任せてもらう機会が訪れました。

オペラ座のバンダは基本全員エキストラなので、ピットで楽団員と演奏できたことは非常に貴重な経験でした。

袴田:おめでとうございます!その時はどんな気持ちでしたか?

髙松:最初は毎日同じプログラムを演奏するので、「飽きてしまうかもしれない」と少し心配していましたが、実際は毎回違う発見がありました。

公演ごとに状況が微妙に異なり、新鮮な気持ちで演奏できたことは、とても興味深い体験でした。

また普段一緒に勉強している先生と現場でご一緒出来たことも、とても嬉しい経験でした。

あとは教会での演奏も非常に特別な経験で、イースターやクリスマスのミサで演奏させていただく機会がありました。

ヨーロッパの教会でのミサの音楽に関わることって、日本ではなかなか経験できない貴重なものなので、ここで演奏させていただけて嬉しいです。

袴田:オペラや教会での演奏が多いのは、ヨーロッパならではの活動ですよね。

伝統と文化が深く根付いた舞台で演奏することは、音楽家として大きな糧となりますね!

今後の活動について

パリ音楽院の仲間と学校外のオーケストラでクリスマス・オラトリオの本番、サン・ジェルマン・デ・プレ教会にて

袴田:今後の活動についてお話しいただけますか?

髙松:僕の今の一番大きな目標は、ヨーロッパでオーケストラに入団し、こちらで仕事をしていくことです。

フランスに来てからこの目標が明確になり、現在もそのために努力しています。

日本人としてヨーロッパに滞在し続けるにはビザが必要で、それには仕事が不可欠です。

ですので、近い将来、こちらで仕事を見つけて、オーケストラに入団することが一番の課題です。

袴田:そうなんですね!ヨーロッパ全体のオーケストラで考えられているのですか?

髙松:今はフランスのオーケストラで演奏することを目標にしていますが、ドイツや他の国の可能性もあります。

あと、これまで日本で学んできたことや日本の音楽界との繋がりも大切にしたいと思っています。

特に、パリ音楽院での学びを活かして、フランスのトランペット界と日本のトランペット奏者たちを繋ぐ活動ができればと考えています。

以前はフランスのトランペット奏者が非常に有名でしたが、最近はドイツの奏者が目立っており、日本からもドイツに留学するトランペット奏者が増えています。

でも、フランスにも素晴らしい奏者がたくさんいるので、彼らとのコネクションを大切にしながら、日本でマスタークラスや共演の機会を作っていきたいです。

具体的には、私の先生を日本に招いてマスタークラスや演奏会を開けたらいいなと思っています。

先生は10年以上前に日本で活動した経験がありますが、また日本に来ていただき、フランスと日本のトランペット奏者を繋ぐプロジェクトに関わってもらいたいと願っています。

これはずっと思い描いている目標の一つです。

袴田:素敵な目標をお話しいただきありがとうございます。

日本とフランスの音楽界を繋ぎたいという思いが、とても力強く感じられます。

その目標が実現したら、若い日本の奏者たちにとっても貴重な学びの機会となりますし、私も応援しています!

これから留学したい人に向けてメッセージ

パリオペラ座での演奏会、オペラ・ガルニエのオーケストラピットより

袴田:最後に、これから留学したいと思っている人に向けてメッセージをお願いします!

髙松:留学を考えている人に伝えたいのは、最初の一歩を踏み出す瞬間が一番勇気のいることですが、その一歩を踏み出すことで未来が大きく変わっていくということです。

例えば、学校に申し込むことや出発の日を決めること、あるいは留学後の日常生活の中で、フランス語がまだ完璧に話せなくても勇気を持って周りの人に話しかけてみること。

そういった最初の行動が本当に大切だと思います。

もちろん、最初は不安になることもあるかもしれません。

言語の壁や新しい環境での戸惑いなど、慣れないことがたくさんあります。

僕も留学当初、最初にクラスメイトに話しかけるのは緊張しました。

でも、一歩目を踏み出すことで、その先には新しい友達や経験が待っています。

留学生活そのものも、受験に申し込んで試験を受ける、という最初の行動から始まるのです。

だから、勇気を持って最初の一歩を踏み出してほしいです。

日本では言葉の壁がない分、自然と物事が進んでしまうことが多いかもしれませんが、海外ではその壁がある分、よりチャレンジ精神が求められます。

でも、そのチャレンジをすることで自分自身が成長できると思うので、 一緒に頑張りましょう!

袴田:髙松さん、素晴らしいメッセージをありがとうございました。

留学は、最初の一歩が不安であっても、髙松さんのように挑戦し続けることで、多くの経験や新しい仲間との出会いが待っています。

一歩踏み出すその勇気を、ぜひ大切にしてみてください!

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