皆さんこんにちは。フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回は、中学生の時に留学を目指し、高校卒業後にパリ国立高等音楽院へ入学された、ヴァイオリニストの佐藤玲果さんにインタビューさせていただきました。
学士課程・修士課程を修了後、現在は同音楽院第3課程のアーティストディプロマに在籍されています。
ヴァイオリンを専門的に学ぶ決意をした頃のエピソードや、現在在籍されているアーティストディプロマについて。また、これから留学されたい方へ向けて、言葉の大切さや、入試シーズンで気を付けるべきこともお話ししていただきました。
佐藤玲果 Reika Sato
東京藝大附属高校を卒業後、パリ国立高等音楽院の学士課程へ満場一致で入学。飛び級にて卒業後、同音楽院の修士課程へ入学、卒業。現在、同音楽院の第三課程現代音楽科、またパリ地方音楽院にオーケストラ科コンサートマスターとして在籍。 第13回グリュミオー国際音楽コンクール第2位、大阪国際音楽コンクール 第2位(最高位)など、国内外のコンクールにて多数入賞。これまでにソリストとして東京交響楽団などと共演し、東京文化会館でのリサイタルなど多数実施。 また国内外数々のアカデミー・コンサートに参加、選抜によるサンタンデール音楽祭やパリ室内管弦楽団アカデミーなど。ヴァイオリンをオリヴィエ・シャルリエ氏など、現代音楽をハエ・サン・カン、マスタークラスにおいてザカール・ブロン氏などのクラスを受講。
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留学のきっかけ、ヴァイオリンを本気で続けようと思った頃
袴田:まず、留学のきっかけから教えてください。
佐藤:フランス留学のきっかけは、私が中学生のときに、オリヴィエ・シャルリエ先生が日本にいらっしゃり、東京と京都でマスタークラスをなさっていたんです。
その時に、当時習っていた先生が「彼はすごくいい先生だから行ってみたら?」って言ってくださったのがきっかけで、その時に初めてフランス人の先生のレッスンを受けました。
シャルリエ先生と出会って、何回かレッスンしてもらううちに「この先生に習いたい!」という気持ちがどんどん強くなりました。
それで、先生について詳しく調べてみると、パリ国立高等音楽院(=以下CNSM)の教授ということが分かり、そこからは、CNSMを目指して留学すると決めていました。中学2年生の頃です。
袴田:中学生の頃からCNSMを目指していたんですね。それも先生のクラスにというところまで絞って、すごいですね!
ちなみにヴァイオリンは何歳から始めたのですか?
佐藤:3歳からです。もちろん最初はプロになる気はなくて、その時は勉強も好きだったので、習い事としてやっていました。
ですが、小学校の中学年くらいの時に「この先もずっと勉強とヴァイオリンを両立するのは、いつか難しくなるんだろうな」という思いが出てきたので、どちらをメインにするか選ぼうと思ったんです。
当時、ヴァイオリンは近所のスズキメソードの教室で習っていたのですが、本気でヴァイオリンを続けるなら、そろそろ先生を変えたほうがいいタイミングでもあって。
それで勉強かヴァイオリン、どちらを本気で頑張るかという話を家族や先生たちとしているときに、どうしてもヴァイオリンを辞める姿は思い浮かばなかったんですよね。
なので、その時に当時習っていた先生とも相談して、ヴァイオリンを専門的に頑張ろうと決心しました。
袴田:私がサクソフォンを始めたのが5年生の頃なので、それよりも前にヴァイオリンを本気で頑張ろうと決心されていたなんて、すごいです!
ご両親は音楽にご理解がある方だったのでしょうか?
佐藤:はい、私の母はピアノの先生です。なので、先生選びや、先生を変えるタイミングなど、なかなか難しい選択も、親身に考えてくれました。
ヴァイオリンをやりたいと言ったのは私ですが、母も子どもに音楽はやらせたいと思っていたみたいで、特に子どもの頃にたくさん協力してくれたのは、とてもありがたかったなと思っています。
高校卒業後すぐに渡仏。そのタイミングは?
袴田:佐藤さんは、高校を卒業後すぐに留学されていますが、そのタイミングはどうやって決めたのでしょうか。
佐藤:本当は、今のシャルリエ先生にどうしても習いたいというのが一番だったので、高校の途中で留学しようかなと思っていたんです、でも、CNSMの入学資格が「高校卒業の資格を持っていること」か、「在学中に高校とダブルスクールをすること」だったので、高校は日本で卒業することにしました。
袴田:とにかく早くフランスに行きたい!っていう気持ちが、本当に強かったんですね。
佐藤:そうですね、中学生の頃からブレることはありませんでした。
袴田:そんな目標通り、高校卒業と同時にCNSMの第1課程に合格された佐藤さん。
入試の準備についてお話をお伺いできますか?
佐藤:今でもそうですが、CNSMの募集要項や課題曲が出る時期って、毎年大体決まっているので、課題が出たらすぐに入試対策ができるように準備しました。
課題曲と選択曲があるのですが、選択曲のリストは毎年あまり変わらないので、発表される前に一応全部チェックはしていました。
当時高校3年生、卒業前の忙しい時期で、高校の方の試験やコンサートと入試準備を両立しなきゃいけなかったのですが、とりあえず入試の曲が出た瞬間から入試対策は始めましたね。
ただ、選択課題曲の中で、どのレパートリーが自分に合っているのか判断するのは難しいので、私は現地の先生に相談できましたが、それが心強いサポートになりました。
袴田:そうですよね。やっぱり評価される点が日本と違ったり、フランス人の視点から見て自分の演奏がどう映るのかって、わかりにくいですもんね。
手厚いサポートで、ストレスなく進められた留学準備
袴田:パリに来るときの準備で、何か困ったことはありましたか?
佐藤:当時は本当に何もわからない状態だったので、留学斡旋業者にフルサポートをお願いしたんです。なので、特に困ることなくスムーズに留学準備できましたね。
袴田:そのサポートというのは、具体的にどんなことをしてもらったのですか?
佐藤:まず、入試の手続きや、入学に必要な書類は、全て翻訳して用意してくださいました。合格してからも提出しなければいけない書類が多いので、サポートなしでは出来なかったと思います。
また、現地についてからも、空港まで迎えに来てくださったので、まだ高校生だった私も安心して渡航する事が出来ました。
あと、現地で困ったことがあった時のために、24時間電話で相談できる人たちもいらっしゃいましたね。
袴田:そうなんですね!やっぱり最初の手続きがスムーズになることで、ストレスも減りますよね。
高校生だと、やっぱり親御さんも不安でしょうし。
佐藤:はい、本当に困ることなく留学生活をスタートすることができたので、助かりました!
フランス語は公文で!幼い頃からの外国語学習
袴田:フランス語について、日本でどんな準備をしたかお聞かせいただけますか?
佐藤:留学を考え始めたのが中学生なのですが、その時から「留学するなら現地の言語は勉強しなきゃいけないな」と思っていたので、中学3年生の終わり頃から公文の通信教育でフランス語を始めました。
袴田:おお!インタビューをしていて、公文が出てきたのは初めてです!中学生ならではですね!
佐藤:そう、公文でもフランス語があって、大人でも受けられますよ!
しっかりと添削してもらえるのが大きくて、公文で最初のステップを始めたのは良かったですね。
その後に、対面でのグループレッスンに行き始めました。でもやっぱりグループレッスンって、自分のペースに合わせられなかったので、すぐにマンツーマンレッスンに切り替えました。
こんな感じで、フランス語は中学校3年生からゆるゆるとやっていて、高校でもそのまま続けました。
やっぱり言語が一番の壁になってしまうと、現地に行ってから学べることが制限されるので、早めに始めないのはすごくもったいないと思います。
フランス語教室や、一般のテキストで学んだことと、音楽院で実際に使う言葉は全然違うことも多いですが、少なくとも生活に必要なレベルまでは勉強して行った方がいいですよね。
せっかくいいものを持ってるけど、伝えられないとか、すごく素敵な人なのに伝わらない・・・っていうのがあると困ってしまうので。
あとフランスでは、何事も言葉に出したもの勝ち!みたいなところもあるので、なるべく自分のことはしっかり表現できるようにしておくといいかなと思います。
もっと欲を言うなら、英語も現地語も両方できるのが一番いいです!
実は、私も英語は生まれたときからやっているのですが、フランスで英語もすごく役に立っているので。
袴田:生まれたときからですか!
佐藤:そうなんです。母は自宅でピアノ教室をやっていて、当時は本当にたくさんの生徒さんがいらっしゃって毎日忙しかったので、私はその間英会話教室に連れていかれていました(笑)
英会話教室といっても、まだ小さくて先生と遊んでいる感覚だったので、外国語に対する壁は自然と全くなかったんです。
受験準備、パリ国立高等音楽院での生活
袴田:佐藤さんが受験された当時のことを、少し教えていただけますか?
佐藤:私は受験の1ヶ月半前に渡仏して、日本人のご夫婦のお宅にホームステイさせていただきました。その住居探しも斡旋業者にお願いしたのですが、パリの郊外にあるお宅を見つけてくださり、一日中練習もさせていただけたので、とても助かりました。
あとは、色々な現地の先生にコンタクト取って、入試前にレッスンをお願いしたり、とにかく受験に集中していましたね。
袴田:万全の体制で試験に臨まれていたんですね!CNSMに入学されて、今は何年目でしょうか?
佐藤:学士課程2年+修士課程が2年+現在はアーティストディプロマである、Ensemble Nextの2年目なので、CNSM6年目です。
学士過程は本来3年なんですが、私は2年で終わらせました。
それは、もし早く単位が取れるのであれば早めに卒業して、その時間を修士課程が終わった後に使おうと思ったからです。
修士過程だけでなく、博士課程やアーティストディプロマ、オーケストラのアカデミーなど、フランス国内だけでもまだまだ可能性が広げられる機会がたくさんあるので、その時間を長くとりたいと思っています。
パリ国立高等音楽院のアーティストディプロマ|Ensemble Nextについて
袴田:今在籍されているCNSMのEnsemble Nextについて教えていただけますか?
佐藤:はい。これは第2課程(修士課程)を持っている人のみが受験できる第3課程です。
CNSMの第3課程は
・アーティストディプロマ(クラシックコース)
・アーティストディプロマ(現代音楽コース)
・博士課程
の3種類に分かれていて、Ensemble Nextはアーティストディプロマ(現代音楽コース)にあたります。
コース自体は元々あったのですが、2022年に「課程」から「アンサンブルグループ」としてリノベーションされたんです。
入試も2年に1度になり、2年間ずっと同じメンバーで活動するというシステムになりました。
コースの内容は、学内外の演奏会がメインで、色々な作曲家やEnsemble Intercontemporain(=以下アンテルコン)とのコラボレーション企画も定期的にあります。メインの教授も、アンテルコンのヴァイオリニストであるHae-sun Kang先生です。
Ensemble Nextの授業形態はちょっと変わったシステムで、2年間で10時間自分のレッスン時間があって、その時間はどの楽器の先生にでもお願いしていいんです。
袴田:面白いシステムですね!
現在の活動について
袴田:現在は、CNSMのEnsemble Next以外にもどこかに所属されていますか?
佐藤:はい、CNSM以外にパリ地方音楽院(=以下CRR)のオーケストラ科で、コンサートマスターをしています。
CNSMでの学士・修士を終えて、今は現代音楽が中心になっているんですが、クラシックの勉強もここで忘れたくないなと思って、CRRに入学することにしました。
学内での活動は、現代アンサンブルとオーケストラにフォーカスしていますが、今年はソロの活動ももっとブラッシュアップできたらいいなと思って、いろいろなコンクールに挑戦したりアカデミーを受けたりとかもしています。
あと、私はアーティストディプロマで、日本の伝統的な音楽と西洋音楽の融合に現代音楽の技術を組み込んだら面白いなと思い、そちらを主に研究しようと思いました!またその様なコンサートやレクチャーなどを実際に日本やパリで開催できたらとも思っています。
これからもこの研究も続けていきたいと思っています。
留学を考えている方へメッセージ
袴田:最後に、これから留学を考えてる方にメッセージをお願いします。
佐藤:はい。フランス留学に限らず、何か一つでも明確な目標を自分の中で持ってから行くっていうのはすごく大事だなと思っています。
もちろん、現地に行ってから目標が変わったり、考え方は変わると思いますが、目標を持つことに意味があると思います。
小さなことでも「これをしたい!」っていうのがあると、留学生活により集中できるし「私、今何のためにフランスにいるんだろう?」ってネガティブに悩むことも少なくなるのではないでしょうか。
そうすると「そのために何をしたらいいんだろう?」っていうのが見えてくるので、モチベーションにも繋がると思います。
私の場合は「シャルリエ先生につきたい!」というのが一番強かったのですが、「現地のこんな文化を知りたい」や「ここに行きたい」でも何でも、何か一つ自分の芯を持ってから行くのがいいなって思います。
あと、これから冬に受験に来る人たちには、特に体調管理に気をつけてほしいです!
フランスの冬は、すごく感染症(インフルエンザや胃腸風邪)が流行るので、受験前は特に要注意です。
コロナ禍になってからはまだマスクがしやすくなりましたが、以前はマスクをしている人なんていなかったので、気を抜くとあっという間に感染してしまうんですよね。
なので、とにかく健康第一に頑張ってください!