みなさんこんにちは!フランス音楽留学アドバイザーの袴田美帆です。
今回は、サクソフォン奏者・服部菜乃香さんのインタビューをお届けします。
音大卒業後に就職した服部さんが、フランスの地方音楽院を卒業し、ソロやアンサンブルで活躍するまでの道のり、そしてSNSでの活動にも力を入れる理由とは?
素敵なご縁が繋がったという音楽院の入学エピソードや、ロックダウン中の苦労もお話しいただきました。
また、世界中のサクソフォン奏者で人気を集めるサクソフォンアクセサリー「Wakka」開発の裏側にも迫ります!
服部 菜乃香 Nanoka Hattori
大阪出身。 相愛大学音楽学部音楽学科を経て、フランス地方音楽院(CRR de Tours :Perfectionnement)を卒業。 ヴァンソン・ダヴィット氏、フィリップ・ガイス氏、ニコラ・アルセニジャヴィチ氏、ジェローム・ララン氏、ケネス・チェ氏のマスタークラスを受講。 ソロ・アンサンブルで演奏活動しながら、最近ではSNSでの動画投稿にも力を入れている。 2020年、フランスで開催された、入場者数2万6千人規模の『JAPANフェスティバル2020』に出演。 2024年、京都の伝統的な文化である、「京都大文字」の送り火で、フランス総領事館で演奏。 これまでにクラッシックサックスを前田昌宏、岩田瑞和子、クリストフ・ボワの各氏に師事。
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音大卒業後は就職、そしてフランスに語学留学
袴田:まず、留学のきっかけを教えていただけますか?
服部:2015年、フランスのストラスブールで開催されたワールドサクソフォンコングレスに行ったことです。
せっかくサクソフォンをやっているのだから、本場のフランスに1回は行ってみたいと思っていて、ちょうど学生時代に大きなイベントがあったので、行ってみました。
その時から留学を意識し始めたのですが、いつか行けたらいいなぐらいにしか思っていなかったので、卒業してからは商社の一般職で正社員として2年間働きました。
基本は働いて留学するお金を貯めながら、音楽活動も少しずつ続けていましたね。
それでお金が貯まったところで、まずは語学留学をするためにフランスに行きました。
音楽留学ではなかったので、ビザも語学学校で取得しました。
袴田:それはどこの地方に行かれたのですか?
服部:フランス中心部にある、トゥールという街です。
フランス語が標準語で、綺麗に話されている地域と言われているので、そこを選びました。
フランスの音楽院に入学するきっかけ
袴田:それでは、どのように音楽院に入学されたのか教えていただけますか?
服部:夏に開催されたサクソフォン講習会に参加したことです。
ハバネラサクソフォンアカデミーという、サクソフォンの中では有名な夏期講習会があるのですが、そこに参加したことがきっかけで「せっかくフランスにいるなら、音楽をもう一度学びたい」という思いが強くなったんです。
ですが、その時はもうトゥールの語学学校に通っていたので、音楽院を探す選択肢はパリのように多くはありませんでした。
講習会中にできた友人に「トゥールに音楽院ってあるのかな?」と聞くところから始まり、トゥール音楽院のサクソフォンの先生を探し、のちに師匠となるクリストフ・ボワ先生にFacebookで直接メッセージを送りました!
袴田:なんと!クリストフ先生は、パリ国立高等音楽院の助教授でもありますし、素敵な先生に巡り会えましたね!
服部:そうなんです、全然知らなくてトゥールに来たので、ご縁に感謝です。
そこからクリストフ先生に「音楽院に入学したいのですが、どうしたらいいですか?」と、何も知らないところから相談させていただきました。
それが8月のことだったので、音楽院はバカンスに入っていましたし、本来ならば音楽院の入試も締め切られていたはずなのですが、クリストフ先生が事務の人に交渉してくれて、受験させてもらえることになったんです。
そこから9月の入試に向けて、何もわからないところから必死に準備をしました。
当時は家で練習することができなかったので、ロワール川で練習していましたよ。
試験は面接もあったのですが、クリストフ先生にたくさん助けてもらいながら、拙いフランス語と英語を使って乗り切りました。
袴田:入試がちょうど間に合うタイミングだったからこそ、先生も協力してくれたのでしょうね。
留学生が、直談判で自分のクラスに入りたい!とメッセージをくれたのは、先生も嬉しかったと思います。
服部:そうですね、とてもありがたかったです!
袴田:ちなみに、入学した課程はなんという課程かお伺いできますか?
服部:資格取得をする課程の一つ下のクラス(Perfectionnement)に入りました。
ここに課程の記事のリンク
なので、私は音楽院のディプロマは取っていないんです。
ディプロマを取得するコースではないから、ビザは取れないかもしれないと思ったのですが、事務の方が「週に何時間以上研究活動がある」という旨の書類を作ってくださり、学生ビザを発行してもらえました。
袴田:音楽院の課程によっては、ビザの手続きができない場合もあるので、ビザが延長できる音楽院でよかったですね!
ロックダウン中に家を追い出された?!フランスの部屋探し
袴田:フランス滞在中の部屋探しは、どうされましたか?
服部:初めは語学学校に紹介していただいて、ホームステイをしていました。
でも、コロナ禍のロックダウン中に家を追い出されてしまったんです。
袴田:え!そんな大変な時に家を探さなくてはいけなくなったのですか?
服部:びっくりですよね。
もともとその家は、ホストファミリーの別荘で、家族の方は週に1回ぐらいしか帰ってこないお家でした。
そしたらロックダウン中に、急にトイレが壊れたとか、水道管に問題があるなどと言い始め、挙げ句の果てには今すぐ出ていってくれと言われてしまったんです。
なので、次の日にキャリーケースを持って家を出て、とりあえず駅の近くのキッチン付きのホステルを1ヶ月予約しました。
袴田:そんなことがあり得るんですね…ですが、1日でそこまで行動できたなんて素晴らしいです。
服部:今思うとすごいですよね。
そこから、同じ音楽院の中国人の子が「今ロックダウンしてるしコロナで危ないから、自分の住んでいるシェアハウスにおいでよ」って言ってくれて、そこから5人くらいのシェアハウスに移動しました。
当時は一番酷い時期のロックダウンだったので、警察に見張られながらキャリーケースを引いて行きましたね。
そこから自分のアパートを見つけられたのは、ロックダウンが明けてからです。
袴田:それはどのように見つけたのですか?
服部:トゥールで大きなジャパンフェスティバルがあるのですが、それを運営してる人とたまたま繋がって、紹介してもらえたんです。
留学してから1年半くらい、日本人がトゥールに住んでいることすら知らなかったのですが、ようやく日本人の方と関わる機会ができて「コロナは大丈夫だった?」とか、日本語で話して色々と心配してもらえたことが嬉しかったです。
家を見つけていただいてからも、電気代の支払い方法や諸々の手続きなどを手伝っていただいて、その方には本当にお世話になりました。
それに、そのアパートは楽器が練習できる場所だったのですごく助かりました!
袴田:それはよかったですね。
ハプニングの次にはいいことがある!と信じられますね。
トゥール音楽院での留学生活について
袴田:音楽院の生活はどんな感じでしたか?
服部:レッスンの他には、アンサンブルが多かったです。
私は資格を取得する課程ではなかったので、座学の授業はほとんど受けていません。
音楽留学を目指して行ったわけではないのですが、音楽院に通ったことで留学生活がとても豊かになりました。
何年もフランスに住むつもりではなかったので、思い立った時に即行動してみてよかったなと思います。
袴田:そうですよね。タイミングとご縁を逃さず、音楽留学を実現されていて本当に素晴らしいと思います!
何か音楽院生活で印象に残ってることはありますか?
服部:ちょうどロックダウンの時期と重なってしまったので、留学中のイベントは少なかったのですが、色々な先生たちのマスタークラスが頻繁にありました。
クリストフ先生はパリ国立高等音楽院の助教授でもありますし、パリ管弦楽団をはじめとしたフランスのオーケストラでも頻繁に演奏されているので、コネクションが広いんですよね。
なので、有名な先生方のレッスンを学校で受けることができて、とても刺激的でした。
あと、フランスの音楽院のレッスンは、実践的に学んでいくことが多いんだなという印象を受けました。
これは特に、子どもたちのレッスンを見学しながら感じたことです。
小学生や中学生が、発表会やクリスマス会の準備をするのが、本番の1週間前というようなスピード感って、なかなか日本にはないですよね。
初めての合わせがみんな初見だったり、突然明日このコンサートに出てくださいと言われたり…フランスの子どもたちは、こうやって即戦力や適応力をつけていくのかと思いました。
日本の教育って、事前準備をしっかりしてとにかく念入りに固める傾向があるので、フランスは自由が高くて勢いがあるなという印象です。
袴田:私もそう思います!
フランスで大切にされていることと日本で大切にされていることの差って、やはり教育現場から来るものが大きいんですね。
現在の活動について
袴田:帰国されて、現在はどのような活動をされているんですか?
服部:今は、音楽教室でサックス講師をしたり、動画やライブ配信をしたり、Wakka(サックスのアクセサリー・パーツ)の販売をしています。
今後は、自分で音楽教室をひらいたり、出張レッスンをやったりとか、マネジメント的なこともやっていきたいなって思いながら活動しています。
袴田:日本に帰国されたのはいつですか?
服部:2021年です。演奏活動を始めようと思ったのですが、まだそのときはコロナ禍で自粛の時期が続いていたので、音楽活動の収入はほぼゼロでした。
そこで「これはちょっと食べていけないな」と思ったので、職業訓練システムを利用してプログラミングスクールに5ヶ月間通いました。
それで無事ITの資格を取得し、ITといえば東京!と思い東京で就活をして、無事就職しました。
袴田:そこの切り替えや、行動力もすごいですね!東京へ行ったのはいつごろですか?
服部:2022年の4月から働き始めたのですが、正社員としてプログラミングの仕事をするのはやはり大変でしたよ。
その会社は深夜に働くことも多くて、半年くらいで体力的にも厳しくなってきたんですよね。
そんな頃、ようやくコンサートやイベントが復活し始めたので、今度こそ音楽活動を頑張ろう!と会社を退職しました。
せっかくフランスに行ったし、自分がやりたいことを仕事にしたいなと思ったので、東京から関西に戻ってきました。
袴田:IT企業で働いた経験があったからこそ、改めて音楽活動への気持ちも強くなったんですね。
今後は音楽教室の運営も目指されるということで、これからも応援しています!
SNS発信で自分の見せ方を学ぶ
袴田:服部さんはSNS配信などにも力を入れているとのことですが、動画やライブ配信はどういうきっかけで始めようと思われたのですか?
YouTube
Instagram
TikTok
服部:自分の見せ方や、印象付け、売り方を学びたかったからです。
自分ってどういう存在なのか?どうやってアピールしたら映えるのだろうか?など、演奏家としての見せ方に繋がることがたくさんあるので、実際勉強になっています。
あと、私はもともと喋るのが得意ではなかったので、喋り方の練習をするためにもライブ配信をして鍛えようと思いました。
オンラインイベントとかも開催しているのですが、結構いろんな人がライブに来てくれるので、とても嬉しいです!
オンライン上なので、参加してくれる人のアイコンが画面にお客さんのように並ぶのですが、この前は100人ぐらい聴きに来てくれて、自分でも驚きました。
袴田:ライブ配信で人と交流することが、アーティストとしての見せ方にも繋がっているのですね、とっても素敵です!
サクソフォン奏者のために開発したWakkaについて
袴田:服部さんは、現在Wakkaというサクソフォンのアクセサリー・パーツを制作されていますが、それについて詳しくお聞かせいただけますか?
服部:フランスで色んな現代曲に取り組む上で、最低音まで使うことが多かったのですが、どうしても楽器の構造上、音程が上がってしまうのがすごく気になっていたんですよね。
なので、ロックダウン中の授業もオンラインが中心になっていた頃に、なんとかそれを解決できないかと、サクソフォンのベルの中に入れる道具を作り始めました。
フランスでは、穴を少し塞ぐために、楽器のベルの中に直接コルクをつけている人が多いのですが、私はそれを絶対したくありませんでした。
なぜかというと、そのコルクはレジンっていう、アクセサリー作りなどで使う接着剤で楽器に付けられているのですが、レジンは光が当たると必ず劣化して、だんだんボロボロになってくるんですよ。
だから、貼り付けてコルクのコーティングをしてたとしても、劣化して取り外すってなったら、楽器のメッキも絶対に剥がれるんですよね。
だから、楽器が傷む原因にもなってあまりよくないと思うんです。
となると、取り外しができて、尚且つ最低音だけが下がるようなものが欲しいということで、取り外し可能な音程調整のリング「Wakka」を作り始めました。
袴田:コルクをつけているのは私もよく目にしますが、そんな弱点があったのですね。
服部:そうなんです。やっぱり楽器につけるものって、響きを止めてしまう可能性もあるので、慎重に選びたいですよね。
なので、なるべく楽器に悪影響がないよう、色んな素材を買ってきて選びました。
さらに、最低音だけに反応するように分析しつつ、2〜3ヶ月試行錯誤しながら、試奏して…を繰り返しました。
袴田:素晴らしいですね!Wakkaの特徴を教えていただけますか?
服部:Wakkaはとにかく軽くて、低価格なことが特徴です。
手軽に扱うことができ、どこにでも置けて、落としても何ともない素材で作っています。
今は楽器のアクセサリがたくさん開発されていて、マウスピースやリガチャーに加えて、楽器のネジや響きを増す部品など、とにかく選択肢が多いんですよね。
だけど、時間をかけて音色づくりをする人って学生さんや若手奏者の方が多いし、そんなに高価なものって手が届かないんです。
なので、コストを下げつつも劣化しにくい、というのを意識して作りました。
私が今使ってるものは、3年以上前に作ったのですが、今も全く問題なく使えています!
あとは、Wakkaの形にもこだわっていて、楽器を逆さに向けても落ちないよう、サクソフォンのベルにはまるよう計算しています。
今では、クリストフ先生をはじめ、パリ国立高等音楽院やトゥール音楽院の学生さん、東京藝術大学・東京音楽大学の学生さんなど、たくさんの奏者のみなさんに使用していただいています。
袴田:私もWakkaを愛用しているのですが、奏者に寄り添った工夫がお伺いできてよかったです。
Wakkaはどこから購入できるか教えていただけますか?
服部:今は個人の注文か、メルカリから承っています!
これからフランスへ留学したい方へメッセージ
袴田:最後に、これから留学したい方へ向けたメッセージをお願いします。
服部:私は語学留学中に、音楽留学にもチャレンジしようと思ったので、もし日本で悩んでいるのであれば、とりあえず現地に行って、1ヶ月でも1週間だけでもいいので、実際に見てみるのが大事かなと思います。
思い切って行ってみた結果、やっぱり合わないこともあると思いますが、それはそれで次に進めるのでいいのではないでしょうか。
私は何も準備しないまま行ってしまいましたが…
今は情報がたくさんありますし、そこから正しい情報を見極めて準備したら、自分の安心にも繋がると思います。
特に「正しい情報を取り入れる」というところで、全ての情報を鵜呑みにせず、しっかり人に頼って自分に必要な情報を集められるよう頑張ってください!
袴田:ありがとうございます!
私たちも、その人に合った情報や、現地のリアルな情報をお届けするところに注力しているので、迷っている方はお気軽にご相談くださいね。
今日はお忙しいなか、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!